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本編の補足と後日談の番外編
オウタイーシ、教科書になるってよ
しおりを挟む本格的に即位を一年後に控えた頃。
俺の半生を書物にしようと提案があった。
「様々な書物の中で王太子殿下が誠実で一途で面白……愉快……個性豊かなものが少ないのですよ。やれ浮気だお花畑だというのが殆どなので、ここは一つ、殿下を主人公とした書物を出版されてはいかがでしょうか」
ネームレス商会の出版部門から打診を受け、俺はその話を受ける事にした。
俺自身が教科書になる。
世の手本として。
うむ、良い響きだ。
婚約者を大事にし、無駄に傷付けず一途に愛する書物がこれからも増えるように、協力は惜しみなく。
「して、分類はどのように?」
「冒険物ではないですかね。
愉快な殿下と仲間たちが諸国漫遊の旅に出て、困った人を助け悪の手先を懲らしめるのです」
俺は視察以外で中々王宮から出してもらえないからそれは違う王太子ではないかな。
「殿下が銀髪の少女と出会い、その娘を王にすべく騎士となり何度も人生やり直しながら状況を打破していくのはいかがでしょうか」
うーん、ヴァレリアは銀髪だし間違いでは無いけれど、何度も人生をやり直すというのが引っ掛かるな。
「殿下が馬車に跳ね飛ばされた先で魔物になるお話はいかがでしょうか。
粘液質の魔物で色々な物を次々吸収して最終的には最強になるんです」
俺は人間だ!人間がいい!
「殿下がもふもふな獣になって次々と女性を籠絡していくとか」
俺は一途だ!そもそも浮気王太子のイメージを払拭する為の書物を作るのでは無かったのか!?
「ここはやはり7つの願い玉を集めて」
「ええい!俺の話なら俺とヴァレリアのイチャイチャ話でいいじゃないか!」
好き勝手に想像を膨らませる側近たちをにらむと、みな一様に視線をそらした。
「まあまあ殿下。皆も楽しみにしているんですよ。それぞれの話を詰め合わせたものにしてはいかがでしょうか」
「どんな話になるかは任せるが、俺とヴァレリアがいかに愛し合っているかは忘れないでくれよ」
「だそうです。スタンさん、よろしくお願いします」
「が、がんばります!」
それから執筆者であるスタンの取材を受け、事細かに今までの経緯を伝える。
俺だけではなく、ヴァレリアやアイザック、側近たちは勿論王宮使用人まで取材され、それは順調に進んでいった。
そして出来上がった第一稿を読んだのだが。
「矛盾が多い。粘液質な魔物の筈なのになぜもふもふなのだ?毛はどこから来た?あと死んだら巻き戻るのは良いが記憶が無いと前回と同じになるのではないか?それからハーレムはいらないぞ。あくまで一途だ。ヒロインに一途な筈なのに他の女性に鼻の下を伸ばす男はザマァ対象だぞ」
内容に色々言いたくは無いが、ワクワクしながら読んでいても矛盾に気付くと途端にワクワクが冷めてしまう。
その辺りはしっかりと設定せねば隙を突かれてしまうだろう。
「そ、そこは新人に対するお目こぼしをいただきたく……」
ゴニョゴニョと言うスタンを見て、俺は思わず睨んだ。
「この話を出版すると決めたからには新人も玄人も関係無い。新人だから矛盾を見過ごせとか言ってると後に響く。
甘えは捨てろ。執筆者の都合でコロコロ変わる設定だと読者が納得しないだろう。
強引な展開でねじ伏せたら素晴らしい作品が台無しになる。
スタン君、君ならできる。自分を信じるんだ!」
スタンはハッとした顔をし、気まずそうに目を伏せた。だが数拍の後しっかりと俺を見据えた。
「申し訳ございません王太子殿下、私が間違っておりました。殿下に対しても無礼でした。……新人だからという甘えは捨てます。
同じ舞台で戦う者として、死力を尽くします!」
「その意気だ、スタン君!そなたの今後の執筆者人生が明るいものであるように、しっかり取り組んでくれ」
「承知致しました!」
スタンと俺は、しっかりと握手した。
その後何度も書き直しながら、スタンは物語を完成させた。
なんと、それができたのは俺の戴冠式の朝だった。
内容は、婚約者を一途に愛する王太子が、様々な冒険を経て婚約者への愛を示すもの。
仲睦まじい二人だったが、ある日王太子をかばった婚約者は呪われてしまい粘液質な魔物になってしまった。その呪いを解くために7つの宝石を集めて願いを叶えるのが大筋だ。
粘液質な魔物になった婚約者へ愛を囁いたり、ハプニングでもふもふな獣になった婚約者と一緒に寝たり、魔物という事で狙われる婚約者を守る騎士になったり。
そんな王太子を、婚約者は本当の意味で愛し始める。
様々なすれ違い、かけ違いもある。
思わず「アホ!何やってんだ!?」というハラハラ展開も。
だが王太子は一人では無い。
時には愉快な仲間たちに助けられ、叱咤されながら、婚約者への愛を貫くのだ。
「スタンくん、やればできるじゃないか~~!めちゃくちゃ感動した!特に『私は誰よりも殿下を愛しています!』っていう婚約者の台詞にグッときた」
「きょ、恐縮でございます」
「よし、これは早速書き写して……」
「王太子殿下、そろそろ時間ですよ!」
「オスカー様、戴冠式が始まりますわよ」
興奮している間にヴァレリアが呼びに来た。すかさず手を取り、喜びをそのまま伝える。
「ヴァレリア!今書物ができたんだよ。俺が教科書だ」
エヘンと胸を張ると、ヴァレリアはくすりと笑った。
「オスカー様がお手本なら、きっと楽しくて面白い教科書になるのでしょうね」
「ヴァレリアも出てくるからそれは素晴らしいものになったぞ」
「まあ……。もう、あなたは相変わらずです事」
そうしてクスクスとヴァレリアは笑う。
その笑顔、守りたい。
ずっと、俺の隣で、笑っていてほしい。
「ヴァレリア、俺はこれから国王となる。
貴族は勿論、国民の手本となれるようこれからも頑張る。だから、ずっと側にいてくれ」
「勿論ですわ。王妃として、国母として、オスカー様と共にお支えします。
ずっと、お側にいさせてくださいね」
俺はヴァレリアの手を取り、口付ける。
そして、額、髪、頬、それからくちびるにも。
「両殿下、そろそろ時間ですよ」
「行こうか」
「はい」
愛しい妻の手を腕に絡め、戴冠式の会場へと向かった。
この日、俺は国王に、ヴァレリアは王妃となった。
国王となったので、『王太子の物語』はこれにて終わりとなる。
だが、俺達の明日は続いていく。
未来に不安が無いとは言わないが、周りを見れば妻がいて、子どもたちがいて、側近たちがいて。
一人では無いからきっと大丈夫だろう。
笑いあり、涙あり、文句ありあり。
これからもこんな調子で国を治めていくんだろうな。
そう思えば何だかすごく楽しみになって来たぞ。
よし、明日からも頑張ろー!
「陛下、国民にしっかり手を振って下さい!」
ん、そう言えばこれから俺はヘイーカ・リンゴークになるのだろうか。
そんなふとした小さな疑問を胸に抱きながら。
この物語は完結とする!
─── お し ま い ───
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