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本編の補足と後日談の番外編
王太子の側近候補
しおりを挟むアカデミーの卒業を控えた頃、ようやく落ち着いて来たのでアイザックべったりな体制を見直す為、他にも側近を抱える事にした。
「私がおりますのに……」
ハンカチを噛み、よよよと泣き真似をするアイザック。だが、これはこの国の為なのだ。
「今のままだとお前も休日を取り辛いだろう。
婚約者ができたなら彼女の為に時間を使いたいんじゃないのか」
「すぐにでも候補を見繕いましょう。
私程の能力はなくとも、王太子殿下に仕えたい者は沢山いるでしょう。早速募りましょう。
私の休日の為に!」
先程までよよよとしていたのに、急にシャキンと音がしそうなくらいにキリッとなる。何ともゲンキンな奴である。
だがアイザックに任せ切りの体制は良くないのは事実。
一人欠けただけで先日のようなザマだった。
ヴァレリアにいらない心配をかけてしまわない為にも、アイザックが休日を取りやすいようにも、動ける者をあと数名召し上げるのは決定事項なのである。
それからアイザックは、早速候補を見繕い、その書類を持って来た。
「仕事が早いな」
「己の休日確保の為ならば」
殊勝な事を言っているが、魂胆が透けてるからな!
にこりと笑うアイザックをじとりと見て、俺は書類に目を通した。
『名前/ケアレ・スミス』
最初の書類でくしゃりと握り潰したくなった。
いや、先入観は良くない。この者は名前で苦労しているのかもしれない。
名を体現しないよう、慎重派かもしれない。
だが、もし名前の通りだったら……
小さなミスが重なり大きなミスへ繋がりかねない。
それが致命的なものならば……
想像してぶるりと震えた。
と、とりあえず、保留だ。
次。
『名前/トリー・マッキワン』
珍しい名前だな。マッキワン……。書類を見ると侯爵家では無いか。候補その①に挙げておこう。
だがこの者は、家柄は良いが絵姿に問題があった。
絵姿の周りにチラつくピンクの幻影。
確かゲリラライブの時真っ先に婚約破棄され、世を儚みバルコニーから身投げした筈。書類があるという事は、回復したのか。それは良かった。
先陣切って行けそうな気はするが……うーむ。
一応、保留だ。
次。
『名前/グレゴリー・ギデンズ』
護衛件側近候補か。……騎士って、ガとかギとかから始まる名前多いな。気のせいか?
今まで読んだ書物の中の騎士はと言えば、ガイア、ギデオン、ガルシア、ギリアム、などなど。
ガーッとかギーッとか敵を蹴散らせそうなイメージでもあるのだろうか。
性格的にも粗野で無鉄砲で脳筋で短気でガサツで性欲旺盛で浮気者で……
世間の騎士のイメージ酷いな!?
清廉騎士はいないのか!!
……しかし、王太子の護衛騎士が、主の婚約者に剣を突きつける書物を先日読んだばかりだ。
別の書物は肩を強く掴んであざができていたし、更には切り付けるやつもあった。
あり得ない。
そんな事をしたら俺は奴を秘密裏に処理しなければならなくなるだろう。
真正面からいっても勝てないだろうからこう、シュッとしてキュッとしてヒュンヒュンバシュッだな。
まぁ、そうならないように見張ってれば良いか。
……気が抜けなさそうだな。
保留!
次。
『名前/ミリョウ・サレテマス』
魅了……されてます?却下!
『名前/ゴウヨ・クマジン』
強欲……却下!
『名前/ハラン・バンジョー』
何か知らんが大変そうだな!
名前は重要だ。
名は体を表すと言う。
先入観で決めるのは良くないが、もっと、こう、まともな。
いや、普通の名前の者はいないのか!?
『名前/クラーク・ラス』
すっごく普通そうに見えるけど、貧弱そうにも見える不思議。
言葉ってすごいな。
『名前/コンラッド・ブラック』
すっごく普通そうに見えるけど、とある害虫に対して強そうな気がする。
すっごく頼もしそうだ。厨房にやった方がいい気もするけれど、側近候補である。
『名前/ガスパー・テンプル』
すっごく普通そうに見えるけど、なんか胃に優しそうな気がする。
俺の周りは色んな事で胃に優しくない成分が多いからな……。
それから様々に書類に目を通し。
俺は決断した。
「王太子殿下の側近候補に加えて頂き、喜びに満ち溢れています!このグレゴリー・ギデンズ、誠心誠意尽くし、命に代えましても書類捌きを全うする所存であります!尽きましては」
「で、ででで殿下、王太子殿下、わた、ワタシで、よよよよろしいのですかかかッ」
「一度は過ちを犯し、生命尽きかけていた私めに挽回の機会を頂けるなど、身に余る光栄でございます。一族にすら見捨てられそうになった私を……。……クッ、泣かないぞ。
これからは王太子殿下に誠心誠意尽くします。そして、いつの日か我が愛しの婚」
「クラーク・ラスと申します。よろしくお願いします」
「コンラッド・ブラックと申します。よろしくお願いします」
「ガスパー・テンプルと申します。よろしくお願いします」
以上、六名の側近候補を迎えたのだった。
前者三名は俺が、後者三名はアイザックが育てる事になる。
個性豊かな面々を引き受ける事になったのは面白そうだからだ。
勿論しっかり働いて貰うが、ただ仕事するだけというのも味気ない気がした。
のだが。
「殿下、文化部から書物の規定について連絡がありました」
「殿下、天井裏から気配がしたので捕らえて牢屋に入れておきました」
「殿下、北部辺境伯から食糧の支援要請が来ておりました。現在余裕がありそうなのは西部と南部でしょうか。東部は麦の備蓄は間に合ってませんが、他の食糧は余裕がありそうです」
こやつら中々に優秀で、アイザックはニコニコ。
俺は忙しさが増した気がした。
何でだよ!
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