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番外編〜リディア編〜
10.結婚式の準備
しおりを挟む婚約して半年が経過した。
その間正式に二人の婚約が発表され、夜会などでも堂々と連れ立っていた。
かつてオズウェルに秋波を贈っていた令嬢たちは阿鼻叫喚であったが、リディアに攻撃を加えようとする者はいなかった。
その気配があるとオズウェルが牽制するからだ。
「僕の大切な人を傷付けたら一生許しませんよ」
極上の笑みを浮かべるが、目は笑っておらず周囲を怯えさせた。
その現場にリディアが居合わせ諌めると、優しく甘い空気を出すのだから令嬢たちは敵わないと諦めざるをえなかった。
一部は諦めずに近寄ろうとしたが、後日縁談がまとまり次第に言い寄る令嬢はいなくなった。
「良い出逢いがあったんですね。おめでとうございます」
と、いい笑顔で言われれば口を噤むしか無かった。
オズウェルの母である側妃セレニアは予定通り国王と円満に離縁し、すぐに護衛騎士ギルバートと再婚した。
離縁する前に懐妊していない事を魔術鑑定で証明すればその日のうちに再婚できる。
ちなみに国王は幻影魔法を解いた。
「色々と申し訳無かった。……貴女は美しい女性だったんだな……」
最後の眼差しに思わず揺れ動き、それを悟られないようにセレニアは笑った。
「今更惜しんでも、もう遅いのですわ」
彼女は清々しい表情をし、国王は「違いない」と笑った。
「王妃殿下や王太子妃殿下を見てたら私もほしくなったわ。まだ間に合うかしら」
そう言いながらセレニアはギルバートが住む屋敷へと引っ越して行った。
「もしかしたら私も孫と同い年になるかもね」
意味深に微笑んでいた母親に、ぶるりと震えたオズウェルだった。
「また遊びに来るわね」と言い残し、その言葉通り時折遊びに来ては二人の邪魔をし嵐のように帰って行く。
嬉しい知らせはもう少し先になるようだ。
あれ以来二人は性欲の暴走を控え、結婚式までは我慢しようと話し合った。
とはいえ口付けはするし身体にも触れる。
まだ成人したばかりの18歳の彼に我慢を強いるのは酷な事だと、リディアは好きなようにさせていた。
一度、進言した事がある。
オズウェルにとって衝撃的な言葉を。
「オズウェル様、……その、愛妾をお召しになっても……」
言い掛けた所でオズウェルの表情が抜け落ち、「もう無理」と懇願するまで啼かされた為、リディアはそれ以降愛妾を勧めるのは止めた。
オズウェルも兄が側妃を進言された時はこんな気持ちだったのか、と納得していた。
愛する人から他を提案され、絶望し、腹が立ち、執拗に攻め立てた。
ほしいのはただ一人だけなのに分かってくれない事がもどかしく、ずぶずぶに蕩けさせた。
秘芽がぷっくり腫れ上がる程弄り、じんじんとするくらい乳首を捏ねた。
何度達しても攻め手を緩めず、ぐちゃぐちゃにして自分以外考えさせないくらいに溶かした。
「二度と言わない?」
「言わなっ、いぁっ、ひぃっ、ひっああっ」
それ以降リディアは愛妾のあの字も言わなくなった。
それ以外は順調に日々は過ぎて行った。
結婚式の準備と公務とで忙しくはあったが、充実した日々を過ごしていた。
夜はそれぞれの部屋で眠った。
婚約者という立場ではあるが、未婚という事、共寝をすれば最後の一線を容易く越えてしまうだろうという事でそこだけはきちんとしようとオズウェルの提案だった。
自身の事を考えてくれるオズウェルに嬉しくなり、リディアは益々想いが溢れてしまう。
その度に自分を選んでくれてありがとうと感謝をしていた。
やがて王妃が出産し、数カ月後に王太子妃が出産した。
それぞれ産後三日目に御見舞に行くと、子どもにでれでれしている父親と、それを苦笑しながら見る母親の姿があり、思わず既視感を覚えた。
生まれが数カ月違いの叔母と甥になる赤子二人は城内の皆から可愛がられ、虜にしていく。
特に王太子テオドールは待望の第一子の誕生に喜び、暇を見つけては妻と息子の様子を見に行った。
国王も王太子もそれぞれの伴侶の公務も担い、忙しくも充実した日々を送っていた。
オズウェルとリディアの結婚も間近に迫っていた。
結局求婚から一年後が一年と半年後に延びてしまったが、その間二人は愛を深め合い確実なものにしていった。
最後の一線を越える事はできずともただ寄り添い触れ合えるだけでも満たされ、その日を待ち侘びていたのだ。
リディアのドレスも特注し、いよいよ一週間後が結婚式と迫り王城内は慌ただしくなっていた。
そんな中一息つく為に離宮の庭でいつものようにオズウェルが作った庭の手入れをしていると、王太子夫妻が息子を抱いて散歩をしている風景が目に入った。
穏やかに笑いながら、王太子妃が抱っこしている息子をあやし、語りかける王太子の姿に、リディアはかつてを思い出していた。
元々王太子の側妃候補として王城に来た彼女は本来ならばあの隣にいたかもしれないと思うと不思議な気持ちになった。
自分が子を抱き、王太子があやす……。
そんな風景を想像してみたがいまいちしっくりいかず、改めて王太子夫妻を見やった。
王太子妃はそばに控えていた侍女に息子を預け下がらせる。
二人きりになったところで、王太子妃が夫に耳打ちして何かを打ち明けると、王太子は目を見開いた。
照れたような表情のまま、王太子妃は自身のお腹に手を当てた。
王太子は両手を挙げ、泳がせてからたまらず妻を横抱きにしてくるくると回った。
まるで嬉しくてたまらないと言わんばかりに喜びに満ち溢れている。
それはとても自然な動作で、リディアは思わず微笑んだ。
「何を見ているんですか」
温かな大きな手で視界を塞がれ、どきりとする。
(ああ、この手に抱かれる子ならば)
リディアは視界を塞ぐその手を取った。後ろから抱かれているような格好になり、その胸に頭を傾ける。
「将来の……少し先の未来の私たちを想像していました」
「兄上を見ながら?」
振り向くと、――やはり拗ねたように口を尖らせる愛しい男がいた。
「お二人のように、私が子を抱き、王太子殿下があやす……という姿を想像できなかったのに。
貴方とならば容易く想像できたんです」
「えっ……」
その言葉を聞き、オズウェルは瞬いた。
「私たちにも早く子授け鳥が来るといいですね」
ふわりと微笑めば、オズウェルは顔をぼふっと赤らめた。
「~~~~っ、あと……っ一週間が……長い……」
へなへなとリディアの肩に顔を埋め悶える。
リディアはこの上なく幸せな気持ちを実感していた。
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