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最終章〜縁の糸の結び直し〜

ex.魔女の後語り〜エンド後の世界では〜

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「それで、リリミアはいくつまで生きられたんだ?」
「エルピスの子が産まれてすぐ楽園に行ったよ」

 一度目のリリミアが30代に突入してすぐに亡くなった事を考えれば随分と天命に逆らったものだ、と縁の魔女は感心するように息を吐いた。

「ヴィアレットは?」
「彼女の方が早かった。王族だから代わりが利かなかったらしい。
 下の子の結婚後に楽園に導かれた。こちらもだいぶ天命は過ぎていたな。
 今頃はガラハドたちに会って母子で過ごしてるんじゃないのか?」
「ランスロットは未だ地獄だから父とは会えぬか。それも止む無しだな」

 ガラハドが希望した転生先は予約があった。
 元々の子が入るのは当然だから、その子の子に入る事にしたのだ。
 その間母を待ち弟妹たちと一緒に過ごした。
 ヴィアレットは子どもたちに迎え入れられ、楽園で過ごしている。

 マリウスはその後ヴィアレットの遺志を受け継いだ子らとカメロンを盛り立てた。
 先の災厄を忘れないように当事者の一人スタンを重用し、生涯側妃や愛妾を迎えず過ごしている。

「時を戻しても長生きできるとは限らないんだな」
「天命に逆らうにはよほどの力がいる。二人はよくやった方だよ。冥界の王の気まぐれかもしれんがな。
 だが先は望めないがどう生きるかは変える事ができる。
 死ぬ時『生きてて良かった』って言えたなら、意味はあったのだろうよ」

 人は生まれ、やがて死ぬ。
 その時何を思うか、悔いを残したまま逝くのか、生きてて良かったと思うのか。
 子を遺す母は心残りもあるだろう。
 その子への愛が現世に留めたのかもしれない、と魔女は思う。

「そういや騎士の息子で時戻りしたのは何故だ? しかもその母の愛もあったな」
「ああ、あれはアヴェインから頼まれたんだよ。
 記憶があるなら次は何も気にしなくて良いように母の愛も抜いてくれってな。
 四人の契約が終わったから次の予約を執行させた。
 子どもは親の事に敏感だからな。
 母に肩入れしていたアヴェインは騎士としての父は良いが父親としては憎んでいたようだな」

 時戻り後、引き離されないように、とメイリアと恋人は辺境へと逃された。
 そこで結婚できる年になるとすぐに挙式をし、今度は誰にも邪魔をされずに結ばれた。
 アヴェインは二人の間に生まれ変わったのだ。
 ちなみにメイリアの実家は騎士団との取引の規模を縮小し、ティンダディルとの交易に手を出している。

「陰の薄いエールはまだマクルドのお守りか?」
「ああ、平民だからな。国王の命令でそうなってるらしい。
 みなに記憶があるから二回目のように商会を盛り立てる事はできないが、それなりに上手くやっているようだ。
 マクルドもそこの下っ端から始めて働いている」

 水晶に映るマクルドは、以前のような美貌はないが生き生きと働いているようだ。
 彼は生涯独身を宣言し、女性からの誘いも断っている。
 時折エールに頼みリリミアたちの様子を遠くから見守っていたが、リリミアの葬儀の時は泣き崩れた。

「俺、が、リリミアの天命を、短くした……」

 その経緯を知るとさすがに堪えたらしく、自害しようとしたがエールが止めた。

「クロスから頼まれてる。例え母が先に亡くなっても後追いはさせるな、と。
 お前は地獄行きだろうが、楽園の入口で会うのも許されない。だから天命まで生きろ、生きて苦しめ、との伝言だ」
「そん、な、だって」
「リリミア様の人生が終わっても、お前はいらない。
 それがクロスの願いだ。父親だったなら、息子の願いを叶えてやれ。
 そして真っ当に生きろ。そうすれば奇跡が起きて楽園の入口で姿を見られるかもしれない」

 それからのマクルドはいつもよりも真面目に働いた。
 罪悪感で圧し潰されそうになっても、目を閉じればリリミアの幸せそうな笑顔が浮かぶ。

 いつか、会いに行けるように。
 そう思いながらマクルドは50代半ばで天命を迎えた。

 楽園の入口でリリミアには会えなかった。


「クロスやばっ! 魅了にかからなかったのもそうだけど徹底ぶりがやばい」
「あー……、クロスはなぁ、母親とあまり目が合わなかったらしい」
「おぅふ……」

 魅了の魔法は目と目が合って掛けられる。
 クロスは母を見ていても、母はいつも他の誰かを見ていたから影響が少なかった。

「えー、やっぱりさぁ、ずっと黒光虫に生まれ変わるで良いかなぁ」
「忌み嫌われるアレか。だがそろそろ魂が疲弊するんじゃないか?」
「騎士はまだ割と元気だけどこのままだと引き摺られるだろうね」
「地獄に行けば王子がいるから会わせたくないんだよね。どんな化学反応があるか分かんないから」

 今回の件はメイがランスロットに頼み魅了魔法を解禁させた事で縁が乱れた。
 縁の糸が絡まる事は縁の魔女にとって怒り以外の何ものでもない。

「まぁけど、二回目リリミアに記憶が無ければマクルドの大勝利だったんだろう?」
「そうだな。エクスとマキナとリリミアの四人でマクルド幸せエンドだったろうな。
 そうはさせたくなかった。そうだな?
 カメロン王国元側妃モルガナ」

 優雅に紅茶を飲む姿は辺境伯の娘であり当時の王太子の婚約者だったモルガナ。
 現国王マリウスの実母である。

「いつまでもアレと公爵家の好き勝手していては、国が滅びるからな」

 時を戻すと決めたのはランスロットら男たち。
 だがそのままでは男たちの良いように物事が進む為、公平を重んじる魔女に対しモルガナは一計を案じた。

「やり直したいと思った者に記憶を残せば良いのでは?
 あとリリミアにも」

 子どもたちはじめリリミアら女性の辛さには心を痛めたが、その行動が変わる事により身勝手な男たちの思い通りにはならなかった。

「公爵の元婚約者であるケイティもようやく一息つけるだろう」

 モルガナは水晶に映る女性を見て息を吐いた。
 カリバー公爵により領地に封入されていた元婚約者は自由を得て今は好きに過ごしている。

「元国王はお前のそのような計略知らなかったんじゃないか?」
「そうだなぁ。だが、まあ、もう終わった事だ」

 モルガナは立ち上がると楽園の入口を目指した。
 彼女はようやく心残りを解消し次の生を目指せるのだ。


「人間は複雑だな。国王を愛していると見せかけて手の込んだ事をする」
「ずっと機会をうかがっていたんだろうな。
 ここまでくると執念だ」

 二人の魔女はお菓子を摘みながら話す。
 人間に利用されていたのか、していたのか。

「魔女なんて便利屋だよな。その呼び名で如何ようにも変わる」
「魔女だからな、仕方ない。……クロスが希少な存在だったんだよ」

 リリミアの幸せだけでなく、はじめは父の幸せも考えていた彼は、最後には魔女の幸せも願う子だった。
 時戻りの魔女はクロスから貰った愛を取り出し眺める。
 キラキラして虹色に輝くそれは何度見ても飽きないものだ。

「これを使えば愛というものを理解できるんだろうがな。……何故か取り込むのは気が引ける」
「その時点で愛が芽生えているのではないか?
 慈しみ、大切にし、幸せを願う。
 人間の中で尊い感情だな」
「ああ」

 時戻りの魔女は目を瞑る。
 今回の時戻りで得た愛は様々な形をしていた。
 男たちの愛は紫や赤など濃い色をしていた。
 子どもたちの愛はキラキラしていた。

 リリミアの愛はどうなのだろう、とふと思う。

 だが、彼女の中のマクルドへの愛は時戻りの時点で消滅してしまっていた。
 ならば誰への愛を捧げ時を戻るだろう、と。
 ヴィアレットなら?

「……案外戻らないかもしれないな」

 終わったあとに「たら」「れば」を繰り返しても時は戻らない。
 人生は一度切り。
 何度もやり直せると思う方がおかしいのだ。

「悔いのないよう行きたいものだな」
「初代縁ののようにはならんぞ」
「アレは特殊だったな」

 魔女二人は再びお菓子に手を伸ばす。

 次の時戻りまで、しばらくは仕事をサボりたいと時戻りの魔女は決意するのだった。

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