2 / 21
これは自分が望んだ結果のはずだった
しおりを挟む『ごめんなさい』
『婚約、解消しましょう』
『幸せに、なって、』
最後に彼女を見たのは、そんな言葉が紡がれた時だった。
彼女といるとずっと息が苦しくて、ずっと逃げたかった。
高位貴族の婿として婚約して、ずっと──
ずっと、彼女の隣に立つ自信が無くて。
本当に僕でいいのか。相応しくないんじゃないか、と、ずっと、重圧で苦しかった。
でも彼女は僕に寄り添ってくれていた。
だけど、僕はそれすら重荷に感じて。
とうとう彼女から逃げ出した。
彼女に会わない日々はとても気が楽だった。
でも義務で会わないといけない日もあって。
次第に断るようになった。
それでも毎日追い詰められるように感じて。
つい、気心知れた幼馴染みに縋ってしまった。
それを見られていたとも知らず、幼馴染みを心の拠り所にした。
彼女は「婚約者の方に申し訳無いからやめて欲しい」と言っていたけれど、婚約者が僕に言い寄って来なかったら幼馴染みと結婚していただろう。
それからは幼馴染みと一緒にいるようにした。
『結婚したら、その方を囲って良いのよ』
って言ってたし、婚約者じゃなくて幼馴染みと一緒にいても問題無い。
もうたくさんだ。
自由になりたい!!
そう、思っていた。
『婚約、解消しましょう』
『幸せに、なって、』
最後に見た彼女の瞳から雫が流れた瞬間。
僕は──
後日、本当に婚約解消された。
望んだ結果だ。
親は「親戚になれなくて残念」とは言ったけど、慰謝料も貰ってうちに打撃が無くてホッとした。
けれど。
望んだ結果なのに。
何故か心にぽっかり穴が空いてしまったように感じた。
あぁ、学園を卒業したら結婚して侯爵家に入る予定が無くなったから身の振り方を考えなくてはいけないのに。
頭が重くて何も考えられない。
学園に行っても彼女から逃げ回らなくて良くなったのに。
気付けば彼女を探している。
心当たりを探しても見つからない。
今日も、昨日も、一昨日も。
そのうち、彼女は隣国へ留学したと人伝に聞いた。
なんでも隣国の公爵閣下に見初められたらしい。
だけど、当時僕という婚約者がいたからお断りしていたそうだ。
けれど、僕との婚約は解消された。
だから、隣国に行って公爵家に嫁ぐそうだ。
それを聞いて僕の胸はざわついた。
「──あ、れ……」
ぽたぽたと、頬を伝って零れたモノが、制服にシミを作る。
思い出すのは彼女の事ばかり。
『幸せに、なって、』
あの時、泣きながら、笑っていた。
初めて、真正面から見たその笑顔が、僕に焼き付いて離れなかった。
998
お気に入りに追加
3,432
あなたにおすすめの小説


悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。


そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。


【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる