20 / 20
後語り
電子版配信記念SS/どんな姿でも【side アストリア】
しおりを挟む時系列はレジーナサイト限定番外編のその後になります。
~~~~~~~~~~~~~~
迂闊だとか、無鉄砲だとか、私の事を色々と言う事もあるだろうけれど。
今回ばかりは認めざるを得ない。
クラウス捜索が順調に終わり、あの二人が幸せになれそうだとホッとした私は、捜索隊とは別れを告げクラウスが見つかった森の中を散策していた。
せっかく国を跨いできたんだもの。
いつもは見ない魔物に出会ったり、貴重な薬草なんか手に入ったりして。
な~んて、ちょっと浮かれていたのがいけなかったのか。
「奥様!」
慌てた護衛のブラントの声に振り向くと、かわいい茶色いウサギのような魔物が目についた。
かわいい見た目に反して腹黒そうな気がしたそれは近寄ってきて何やら文言を唱え始めた。
それが光ってから嫌な予感がした私は、咄嗟にブラントに駆け寄り転移魔法を唱える。
(やっちゃったかもこれ!)
「いてて……」
「ブランちおかー! ……て、魔物連れ帰ってるし!」
「ピーッ!」
ノエルが言う、ブラントのそばにいる魔物はつまり、私の事。
どうやらあの魔物は私を自分の姿にする魔法をかけたらしい。
「 状態異常回復魔法『サナティオ』!」
……だめだ、魔法を唱えられない。
文言が唱えられず魔法にならない。
「これは、」
「ブラント卿、離れて!」
わわっ、やっぱり集まって来るよなぁ。
公爵家に仕える護衛たち――騎士だけでなく魔法使いもいるんだけど、彼らは一斉に私たちを囲い込む。
「お待ちを! こちらは公爵夫人です!」
「お戯れを。見た事もない生き物ですが、どう見ても魔物の類ではありませんか」
剣を向けられ思わずビクッとなる。
「私はアストリアです!」
必死に弁明するも声にならず益々警戒されてしまった。
「何の騒ぎだ」
「ヘルフリート様!」
そこへ当主であるヘルフリート様が帰還した。みな剣を納め、当主に向かって一礼をする。
元王宮騎士団だった人たちもいるから、一糸乱れぬ行動に目を丸くした。
じっと見ているとヘルフリート様と目が合った。
私です。アストリアです。気付いて、と願いながら瞳を潤ませ見つめる。
「実はブラント卿が魔物を連れ帰ってきたので駆除しようとしたところです」
「……駆除?」
ヘルフリート様はぎろりと彼らを睨んだ。報告していた騎士はその威圧に思わずたじろいでしまった。
「ブラント、抱えている魔物をもらおうか」
「へっ、あっ……」
成り行きを見ていたブラントは、ヘルフリート様から声をかけられ肩を跳ねさせ、一瞬ギュッと私を抱き締めたかと思うと前から闇の空気が漏れ出るのに怯え慌ててヘルフリート様へ私を渡した。
魔物なのに大事そうに抱え、ふわふわの毛を撫でる。
「この魔物は私が預かる。みなは鍛錬を続けてくれ」
「は……はいっ」
当主の一声でみなは我にかえり戸惑いを残しつつも再び剣を抜き鍛錬を始めた。
私は、というと。
そのままヘルフリート様に抱えられて彼の部屋に入れられた。
ソファにそっと降ろされると自身もその隣に座る。
じっと見つめられると何だか責められてるみたいで居心地が悪い。
「……それで、何でこんな姿になっているんだ?」
問われて思わず身体が跳ねる。おずおずと彼を見上げれば目がすわってちょっとこわい。
手袋を外しその手で私に触れると――
ぽんっ
「ぷはっ」
魔物だった私は無事、人間に戻ることができたのだ。
「ありがとうございます、ヘルフリート様」
手を握ったり開いたりして確かめ、足もあるか確認する。顔も毛深くないか、頭に耳は残っていないか、確認し終えて彼を見ると未だに目をすわらせたままだった。
「え、……と」
「説明してくれるか?」
その圧に思わず消えたはずの耳が垂れたような気がして項垂れた。
「その……、クラウスは隣国にいました。許可をありがとうございます。で、彼がいたのが森の中で、ちょっと、珍しい薬草とかあるかな、って思いまして……」
説明しているとヘルフリート様はだんだん呆れ顔になっていった。
「あの……心配かけてごめんなさい」
再びしゅんとして謝る。魔法が使えなくなってしまったからヘルフリート様がいなければ一生魔物のままだった可能性もある。
先程騎士たちから剣を向けられた時のことを思い出し、思わず身震いした。
するとそっと抱き締められた。
「リアはいつも無鉄砲で目が離せない」
「う……、ご、ごめんなさい」
「迂闊で考えなしで無防備で」
ちょっと愚痴吐きみたいに拗ねた口調なのは気のせい……?
「でもそんなところがリアらしいと思ってしまう俺も大概だな」
……え?
抱擁を解かれると、穏やかな目をしていた。
「リアが大人しくて淑やかにしてると何かあるのか? って思う。だが今後は気を付けてくれ。魔物になるなんてちょっと肝が冷えた」
「……分かりました。……ご心配をおかけしてすみません」
罪悪感をごまかすようにすり、と胸元に顔を押し付ける。……そういえば。
「あの、どうして私だと分かったのですか?」
目の前で変身したから分かっているブラントを除いて騎士たちはもちろん、ノエルすら僅かに殺気を向けていた。
そんな中ヘルフリート様だけは私に穏やかな眼差しだったのだ。
「どんな姿になってもリアなら気付く。それに魔物のわりに殺気が無かったし、ブラントに大人しく抱かれていたからな。せめて引っ掻きでもしてるなら」
ぶつぶつとブラントに大人しく抱かれていた事の方が面白くないらしいヘルフリート様は、拗ねたように私の髪でくるくると遊びだした。
それがまた、愛おしくて。
「……ヘルフリート様、ありがとうございます」
そう言うと、目を細めて微笑まれた。
その後、姿を現した私に騎士たちから散々頭を下げられて恐縮してしまった。
ノエルも気まずそうにしていたけれど、今回は私も迂闊だったし結果的には無事だったから公爵家当主のお咎め無しで終わった。
けれど。
「変身魔法『カンビオ』!」
ぽんっ。
私は再びあのうさぎの魔物になった。
ヘルフリート様は割とこの姿がお気に入りのようでふわふわと毛艶を堪能している。とはいえ彼以外私を元に戻せる人はいないので、ヘルフリート様の前限定ではあるのだけど。
「茶色い毛並みと赤い目が以前のリアみたいでかわいい」
「それは今の私よりって事ですか?」
素手で触れられ元に戻ると、さらりと流れた白銀の髪に口付けられる。
「俺にとって初恋は赤茶色のリアだった。
二度目の恋は白銀のリアだった。この先何度もリアに恋するんだ。緑もうさぎも輝いて見えるんだ」
答えになってるような、なってないような。
でも、そういった不器用さも併せて愛おしい。
「これからも私にだけ恋をしてくださいね」
「リア以外は恋にならない。愛している」
ヘルフリート様に口付けられて、自然に顔が緩んでしまう。
「私も……愛しています……」
言ったそばから照れがきて、その胸に顔を埋めた。
22
お気に入りに追加
4,637
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける
高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。
幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。
愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。
ラビナ・ビビットに全てを奪われる。
※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。
コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。
誤字脱字報告もありがとうございます!
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!
榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。
理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。
そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ?
まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。