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後語り

電子版配信記念SS/どんな姿でも【side アストリア】

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 時系列はレジーナサイト限定番外編のその後になります。

 ~~~~~~~~~~~~~~

 迂闊だとか、無鉄砲だとか、私の事を色々と言う事もあるだろうけれど。
 今回ばかりは認めざるを得ない。

 クラウス捜索が順調に終わり、あの二人が幸せになれそうだとホッとした私は、捜索隊とは別れを告げクラウスが見つかった森の中を散策していた。
 せっかく国を跨いできたんだもの。
 いつもは見ない魔物に出会ったり、貴重な薬草なんか手に入ったりして。
 な~んて、ちょっと浮かれていたのがいけなかったのか。

「奥様!」

 慌てた護衛のブラントの声に振り向くと、かわいい茶色いウサギのような魔物が目についた。
 かわいい見た目に反して腹黒そうな気がしたそれは近寄ってきて何やら文言を唱え始めた。
 それが光ってから嫌な予感がした私は、咄嗟にブラントに駆け寄り転移魔法を唱える。

(やっちゃったかもこれ!)

「いてて……」
「ブランちおかー! ……て、魔物連れ帰ってるし!」
「ピーッ!」

 ノエルが言う、ブラントのそばにいる魔物はつまり、私の事。
 どうやらあの魔物は私を自分の姿にする魔法をかけたらしい。

 状態異常回復魔法『サナティオ』ピーッ!」

 ……だめだ、魔法を唱えられない。
 文言が唱えられず魔法にならない。

「これは、」
「ブラント卿、離れて!」

 わわっ、やっぱり集まって来るよなぁ。
 公爵家に仕える護衛たち――騎士だけでなく魔法使いもいるんだけど、彼らは一斉に私たちを囲い込む。

「お待ちを! こちらは公爵夫人です!」
「お戯れを。見た事もない生き物ですが、どう見ても魔物の類ではありませんか」

 剣を向けられ思わずビクッとなる。

私はアストリアですピーッ!」

 必死に弁明するも声にならず益々警戒されてしまった。

「何の騒ぎだ」
ヘルフリート様ピーッ!」

 そこへ当主であるヘルフリート様が帰還した。みな剣を納め、当主に向かって一礼をする。
 元王宮騎士団だった人たちもいるから、一糸乱れぬ行動に目を丸くした。

 じっと見ているとヘルフリート様と目が合った。
 私です。アストリアです。気付いて、と願いながら瞳を潤ませ見つめる。

「実はブラント卿が魔物を連れ帰ってきたので駆除しようとしたところです」
「……駆除?」

 ヘルフリート様はぎろりと彼らを睨んだ。報告していた騎士はその威圧に思わずたじろいでしまった。

「ブラント、抱えている魔物をもらおうか」
「へっ、あっ……」

 成り行きを見ていたブラントは、ヘルフリート様から声をかけられ肩を跳ねさせ、一瞬ギュッと私を抱き締めたかと思うと前から闇の空気が漏れ出るのに怯え慌ててヘルフリート様へ私を渡した。
 魔物なのに大事そうに抱え、ふわふわの毛を撫でる。

「この魔物は私が預かる。みなは鍛錬を続けてくれ」
「は……はいっ」

 当主の一声でみなは我にかえり戸惑いを残しつつも再び剣を抜き鍛錬を始めた。


 私は、というと。
 そのままヘルフリート様に抱えられて彼の部屋に入れられた。
 ソファにそっと降ろされると自身もその隣に座る。
 じっと見つめられると何だか責められてるみたいで居心地が悪い。

「……それで、何でこんな姿になっているんだ?」

 問われて思わず身体が跳ねる。おずおずと彼を見上げれば目がすわってちょっとこわい。
 手袋を外しその手で私に触れると――

 ぽんっ

「ぷはっ」

 魔物だった私は無事、人間に戻ることができたのだ。

「ありがとうございます、ヘルフリート様」

 手を握ったり開いたりして確かめ、足もあるか確認する。顔も毛深くないか、頭に耳は残っていないか、確認し終えて彼を見ると未だに目をすわらせたままだった。

「え、……と」
「説明してくれるか?」

 その圧に思わず消えたはずの耳が垂れたような気がして項垂れた。

「その……、クラウスは隣国にいました。許可をありがとうございます。で、彼がいたのが森の中で、ちょっと、珍しい薬草とかあるかな、って思いまして……」

 説明しているとヘルフリート様はだんだん呆れ顔になっていった。

「あの……心配かけてごめんなさい」

 再びしゅんとして謝る。魔法が使えなくなってしまったからヘルフリート様がいなければ一生魔物のままだった可能性もある。
 先程騎士たちから剣を向けられた時のことを思い出し、思わず身震いした。
 するとそっと抱き締められた。

「リアはいつも無鉄砲で目が離せない」
「う……、ご、ごめんなさい」
「迂闊で考えなしで無防備で」

 ちょっと愚痴吐きみたいに拗ねた口調なのは気のせい……?

「でもそんなところがリアらしいと思ってしまう俺も大概だな」

 ……え?
 抱擁を解かれると、穏やかな目をしていた。

「リアが大人しくて淑やかにしてると何かあるのか? って思う。だが今後は気を付けてくれ。魔物になるなんてちょっと肝が冷えた」
「……分かりました。……ご心配をおかけしてすみません」

 罪悪感をごまかすようにすり、と胸元に顔を押し付ける。……そういえば。

「あの、どうして私だと分かったのですか?」

 目の前で変身したから分かっているブラントを除いて騎士たちはもちろん、ノエルすら僅かに殺気を向けていた。
 そんな中ヘルフリート様だけは私に穏やかな眼差しだったのだ。

「どんな姿になってもリアなら気付く。それに魔物のわりに殺気が無かったし、ブラントに大人しく抱かれていたからな。せめて引っ掻きでもしてるなら」

 ぶつぶつとブラントに大人しく抱かれていた事の方が面白くないらしいヘルフリート様は、拗ねたように私の髪でくるくると遊びだした。
 それがまた、愛おしくて。

「……ヘルフリート様、ありがとうございます」

 そう言うと、目を細めて微笑まれた。


 その後、姿を現した私に騎士たちから散々頭を下げられて恐縮してしまった。
 ノエルも気まずそうにしていたけれど、今回は私も迂闊だったし結果的には無事だったから公爵家当主のお咎め無しで終わった。

 けれど。

「変身魔法『カンビオ』!」

 ぽんっ。
 私は再びあのうさぎの魔物になった。
 ヘルフリート様は割とこの姿がお気に入りのようでふわふわと毛艶を堪能している。とはいえ彼以外私を元に戻せる人はいないので、ヘルフリート様の前限定ではあるのだけど。

「茶色い毛並みと赤い目が以前のリアみたいでかわいい」
「それは今の私よりって事ですか?」

 素手で触れられ元に戻ると、さらりと流れた白銀の髪に口付けられる。

「俺にとって初恋は赤茶色のリアだった。
 二度目の恋は白銀のリアだった。この先何度もリアに恋するんだ。緑もうさぎも輝いて見えるんだ」

 答えになってるような、なってないような。
 でも、そういった不器用さも併せて愛おしい。

「これからも私にだけ恋をしてくださいね」
「リア以外は恋にならない。愛している」

 ヘルフリート様に口付けられて、自然に顔が緩んでしまう。

「私も……愛しています……」

 言ったそばから照れがきて、その胸に顔を埋めた。
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