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縁の魔女の後語り
しおりを挟むなんだい、まだいたのかい。
……その顔、納得してないかい?
え、リコリーの番はシオンじゃないのかって?
ふー。
アタシはね、確かにあの二人の縁を繋ぎ直したんだよ。
誰にも邪魔をされないように、もつれた糸を紡ぎ直した。
だけどね……。
傷付いた魂は治せなかった。
結果。
リーゼは確かな縁を求めたんだ。
皮肉だろう?
番の本能を、スオウは拒否したが、リーゼは欲しがった。
それがあれば二度と愛する者を奪われる心配は無いからね。
リコリーは前世の記憶を持っているのかって?
そいつは分からないよ。
そのへんはアタシの管轄外さ。
忘却の魔女が仕事サボってるなら覚えてるだろうよ。
……誰が、悪かった?
まあ、一番はアタシだね。悪かった。
けど番を引き裂いたあの女もだろう?
え、本能に逆らわなかったスオウ?
それは見方によって変わるだろうよ。
ただ、ね……。
本来結ばれる筈のリーゼとスオウの他に、もう一組いたんだよ。
察しのいいアンタなら気付いてるかい。
そう。
ラクスとアネモネだ。
アネモネに見初められたラクスは、平民から貴族にのし上がり、この辺りを治める領主になるはずだった。
二人仲良く統治して、領地整備に力を入れるはずで。
そうすれば、ラクスの姉は死ななかった。
リーゼとスオウの子も、将来名を挙げた冒険家になって世界を救うハズだったんだよ。
一組の番がつがえなかっただけで、周りもめちゃくちゃになってしまった。
未来さえ、歪んでしまった。
その原因はアタシだから縁を紡ぎ直して、途方に暮れた。
縁の糸の影響が大き過ぎてお上から大目玉さ。
この先数百年単位で影響が出ちまう。
必死に縺れた糸を解いては結び直して。
だから、気付かなかったんだよ。
縁の糸の異常に。
「あなたが私の番なのね……」
「ああ、会いたかったよ、我が番」
一人の男がドサリと手荷物をその場に落とした。
その表情には絶望が浮かび上がる。
今まで男が愛していた女性は、男の腕をすり抜けて『番』と呼ぶ男の元へ行ってしまった。
もう、愛しい恋人は自分を見ていなかった。
これは罰なのだ。
過去に自分が彼女にした事と同じ。
いつかは来ると覚悟はしていた。
そして、そのときはやって来た。
あの時の彼女も同じ気持ちを味わったのだ。
分かってはいるが心は粉々になりそうだった。
男はせめて、笑顔で送り出そうと。
くしゃりと顔を歪めて前を向いた。
何かを言おうとしたが、声にならない。
彼女は泣いていた。
「……番?どうした?……我に会えて嬉しいのか?」
「……分からない。分からないけれど、何故だが悲しくて……。どうしてかしら。
貴方を求めてるはずなのに、私のどこかで誰かが違うって叫ぶの」
彼女は手を延ばす。
番の腕の中から、番ではない男に。
「私、番が見つかったの」
「うん、分かってる」
「でも、……あなたは……」
「大丈夫だよ。……君の幸せが、一番大事だ」
「あなたの幸せは……?」
「心配しなくていいよ。大丈夫」
ゆらゆらと揺れる、縁の糸。
「……バカね」
「リコリー……?」
「ありがとう、スオウ」
ぷつりと切れて。
「リーゼ……」
新たに結び直される。
男は応える。
「……幸せに、なれ……」
誰かが笑い、誰かが泣き叫ぶ。
番に翻弄された、縁の物語。
次に縁の魔女の庵に行った時、代替わりしたと言っていた。
縁を弄んだ罰として砂粒と化したらしい。
そして、世界を救うはずの英雄を失った世界は──。
【the.end】
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