何をすれば良い?[なんでも屋の日常]

kaoru

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穀雨

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 四月下旬、農作業が本格化する前の準備依頼で忙しい筈の『なんでも屋』の納屋の中、常務の飯田いいだと、事務担当のつじと、社員の日置が、なにやら作業をしている。

「はぁ、本当にこの中にあるんですか?」

「ああ、あるハズだ」

「でも、作業道具置き場ですよねぇ、ここって。なんで、こんな所に?」

「いや、道具置き場 兼 資料室だ」

「資料室?いやいやいや、違うでしょう。どう見ても、機械、工具置き場で、資料室では、ないですよねぇ」

「…昔はそうだったんだよ。それが、保坂が来た頃から特殊な道具が少しずつ増えて、神部が来てから機械が増えて…こんな風になったんだ。それでも、一年前、総二郎さんが居た時はまだ、直ぐに出し入れできてたハズなんだけどなぁ?」

 飯田の言葉を聞き、辻がなにやら慌て出す。

「ちょ、ちょっと、飯田さん、それじゃぁ、俺が入ってきたから、資料が無くなったみたいじゃないですか?俺は、事務ができる社員として入って、ここにだって、今日、初めて入ったんですよ」

「誰も無くなったなんて言ってないだろ、それに、お前のせいとも言ってないぞ。ただ、総二郎さんが、片付け魔だったんだよ。メチャクチャ綺麗好きでさ、なんでもかんでも、キッチリしててさ、凄かったんだ。…まぁ、俺としては、これぐらい、散らかっていた方が安心するけどな」

「え?これは、これで、…散らかしすぎでしょう。もう少し、道具は大切にしないと…」

「そうか?それなりに、分別もしてあるし、工具置き場なんてこんなもんだろ?もしかして、日置も角とかキッチリ揃えて置かないとイライラするタイプか?」

「いや、そこまでは、言いませんけど、もう少し、ちゃんと分けて取り出しやすいようにしましょうよ。こんなに積み上げてたんじゃ、危ないですし」

「ああ、まぁ、それも、そうか、でも、これからは、どんどん使われて、出されていくからな、また、冬支度の時に、整理するか」

「あっ、飯田さん!この奥に、本棚っぽいのありますよ」

「本当か。じゃぁ、その前に置いてあるもの退かしていこう」

 結構な広さのある納屋の中、奥にある本棚の前に置かれたものを、三人で移動させることに三十分程費やした。
 そして、目当てのスクラップブックを手にして、今の状況に気がつき、絶句した。


「……はぁ、晴れた時にしてほしかったです」

「しょうがないだろ。この時期、晴れたら畑に出なきゃならん」

「で、結局、どうするんです?また、全部、元に戻すんですか?」

「…そうなるな」

「たった一冊のスクラップブックのために、この重労働…何か、間違ってる気がします」

「…だな。資料室は別にするようにしよう…取り敢えず。ここから、脱出しないと、話にならないが…」

 外は、この時期特有の濃霧状態、この下の地域では、『穀雨』として、農家は喜んで良いハズなのだが…納屋での作業はやりにくかった。晴れていれば、外に運び出してしまえるのに、それができないので、室内だけで移動させた結果…三人の回りにバリケードが出来上がってしまった。

「「「はぁー」」」

 三人は、大きなため息と共に、作業を再開した。

「何やってるんですかぁ?まさか、屋内で遭難救助やるはめになるなんて、思ってなかったですよ」

「ホントですね。あまりに遅いから、資料でも読みあさって、時間を忘れているのかと思えば、何で、こんなことに?」

 バリケードが完成した頃、事務所にいた社長が、資料探しをお願いした三人が、遅いことが気になり納屋に向かおうとしたところに、仕事から帰ってきた神部が、興味本位で同行した訳だが…こちらの二人は、納屋の戸を開け絶句した。
 戸を開けても、中に入ることが出来ない。
 物を積み上げた奥を見れば。三人が、せっせっと、物を移動させている。

「そう言うが、神部、お前のせいだろ。お前がもっとちゃんと整頓していれば、資料だって、直ぐに取り出せたんだ」

「えー、俺の中では、ちゃんと整理出来てたから、あまり動かしてほしくなかったんですけどね」

「えっ?これで、ですか?」

「何だよ。日置」

「い、いや、えっと、もう少し、出し入れしやすいように、した方がいいと思うんですけど…」

「まぁ、そうですね。資料もココに置くのは、もう無理がありますね。一番物が少なくなる夏にでも、移動させますか」

「確かに、手狭になってきたよな。日置も入ったことで、山に入る事も多くなりそうだし、まだ、増えるよな?」

「確かにそうですね。納屋の増築も検討しましょうか」

「それは、資料室を確保してからでいいんじゃないか?」

「ああ、それは、事務所前の壁を本棚にしてしまいましょう。保坂くんに、設計図頼んでおきます」

 五人は口も動かすが、身体も動かし、バリケードを解いていく、不思議なのは、神部が入れないハズの入り口から物を出すことはせずに、物を退かしていき、あっという間に入り口から三人がいるところまで、開けた空間を作った。

「取り敢えず、今日は、これでいいでしょ。後は、俺と保坂でやりますよ。時間ある時に、資料も出しておきますよ」

「助かります。じゃ、戻ってお茶にでもしましょう。保坂君が、ヨモギ餅作ってましたからね」

 久々、社員全員でのお茶の時間。

「ただいまぁー」

 目当てのスクラップブックを広げ、土間のテーブルで、社員六人がお茶をしていると勢いよく、入り口の引き戸が開き元気な声をあげ、 社長の長女で、今年十六歳になる二本松 梓にほんまつ あずさが学校から帰っていた。
 一応、『なんでもや』のアルバイト員でもある。因みに、社屋に住んでるわけではなく、社長宅は別にある。

「おかえりなさい。濃霧で、心配してましたが、大丈夫でしたね」

ソファーに座っていた 社長が、笑顔で位置をずらし、梓の為の空間を空ける。

「うん、彰人あきとさんの運転だったからね。天ちゃんが、ちゃんと先導してくれて、安心して登ってこれたよ」

「ああ、彰人くん所の狐達は、優秀な子達が多いですからね」

「そう、特に天ちゃんは人懐っこくて可愛いからね。あとで、ヨモギ餅持っていっていい?」

「そうですね。沢山作りましたから、お裾分けしますか」

 この地域のバスの運転手をしている彰人の家は、敷地内に小さなお稲荷さんの社がある。昔は標高が高く気温が低いこの地方では稲が育たなかったが、品種改良でこの地域でも稲作が出来るようになった時に感謝して建てたと言われているが…
 実際は、稲荷社というわけではなく、妖力を持った狐達と仲の良い彰人の家は、狐付きと言われ、この地域以外のところではあまりよく思われていなかった。あまりの偏見に曾祖父が、この地にやって来て、偏見無く幸せに暮らせるようにもなったので、狐達の社を造ったのだった…

「やったぁー、はじめちゃん、一緒に持っていこうね」

 二八になる保坂を、梓はちゃん付けて呼んでいる。梓が初めて会った三才の時からで、梓の母親であるかえでの影響だ。
 梓は、その時から、保坂のお嫁さんになると言っていて、社長宅ではそろそろ準備をした方がいいのではと、話してるとかなんとか…井戸端会議の題材にされている。

 呼ばれた保坂は、向かいの席で梓のためのお茶を入れ優しく微笑んで頷いている。

 そんな二人を既婚者、婚約済み組は微笑ましく、独身者は羨ましそうに…見ながらまったりとした時間が過ぎていく。
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