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6話 お花畑の者

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 アルマ達はルルンの街の探索に再び足を踏み出した。
 2時間後に電子アラームをセットして、タツゴローとジキンとキャティと一緒に露店街を歩いた。
 このゲームの中では食べ物を食べる事ができる。
 擬似食事とされ、食べた物の味覚や満腹感はゲーム内では存在している。
 しかしログアウトすると擬似食事がなくなるので、胃袋は空腹感になる。
 とても便利なシステムを採用しているのがウェイバリアンオンラインゲームであった。


「なぁ、主よあれはなんだ? 黒い味噌汁みたいなものがあるんじゃじゃ」
「あれはおしるこという食べ物で、とても甘いものです。食べてみますか?」
「もちろんじゃじゃ、皆も一緒に食べようじゃじゅよ」

「全くタツゴローはいつも甘いもんばかり、いつか巨大に太った犬になってしまいますのう」
「女子は甘いものが好きという定番ですわ」

 老齢なジキンと少女のキャティが呟くと、無数に立ち並ぶ露店街の中で、おしるこを購入して1人と3匹は近くのベンチに座って食べることにした。


「こ、これはとてつもなく熱いでなのなの」
「猫は猫舌というしのう」
「こんなのへっちゃらだい」

 
 キャティが息を吹きかけて冷やしながら食べている中でジキンとタツゴローは大食い選手のように片端から餅を食べていた。
 2人の口の周りがあんこで汚れていく中、アルマも美味しいおしるこを食べる事にしていた。
 
 
 それは突然やってきた。
 まるで花びらのように舞い上がり、ゆっくりと舞い散るかの如く。
 気づけば隣に座っている女性がいた。
 年齢は自分と同じくらいだと悟る。このゲームでは年齢詐称が不可能であるのだ。
 アバターの顔や形ですぐに判断できる人と出来ない人がいるが。
 その女性は若造でなければ自分と同じくらいの年齢だと思われた。

「あたしはファナレイ、お花畑ギルドの創始者よ、あなたが噂の獣人を連れているプレイヤーね」

 今、アルマはとんでもない言葉を聞いていた。
 今まで謎のPKによりお花畑ギルドか? と尋ねられて、何度も殺された。
 その元凶が今隣にいる。
 桃色の着物を着用して、ゆったりと座っている姿は、歌舞伎で出てくる登場人物のように洗練されていた。


「まぁ、突然何を言い出すのか? 意味がわからないでしょうが、今、お花畑ギルドでは団員を募集していまして、あなた達にぜひとも加入してくださると」

「断ります」

「いえ、ゆっくり考えてください、じっくりと考えた方が、色々と見えてくるものがあるでしょう」

「一つ質問していいか?」

「もちろんですわ」

「なぜか俺はお花畑ギルドの者と勘違いされてPKをされまくったのだが」

「そうですか、それはとてもご迷惑を、お花畑ギルドでは課金をあまりしていない人を集めているので、あなたの装備がそう思わされたのかもしれないですね」

「なるほどね、ちなみにあなたは課金をしているのですか?」

「していませんわね、ではあたしはこれで失礼します」

 またふわりと花びらが舞い上がると、忽然とファナレイの姿は無くなっていた。

「主、これうまーです。うますぎます。涎が止まりません、リアルでもおしるこください」

「わかったよ、タツゴロー、そろそろ武器と防具が出来た頃だから向かうとしようか」

「「「はい」」」

 3匹のペット達は従順に付き従ってくれた。


=====鍛冶屋ジャスコの鍛冶場=====

 ジャスコの鍛冶屋の扉をノックしてゆっくりと入った。
 武器と防具が完成したようで、展示品のところに並べられていた。
 ジャスコはニコニコしながら、こちらを見て微笑んだ。

「まずは青い目玉が50個もあったから、お前達に1人1個攻撃速度が4倍になるアクセサリーをプレゼントしよう」
「本当にいいのですか? 1個でもすごい額がするのでしょう? それなら売ってしまったほうが」
「確かに4個がなくなるのは痛手だが、それよりもお主との信頼関係が大事じゃ、これからも珍しい素材などがあったら持ってきてくれ、色々と交渉しようではないか、できればフレンド登録して欲しいのじゃ」

「それはもちろんです」


 まるで鍛冶屋ジャスコと友達になったかのようにフレンド登録を果たした。
 4個の攻撃速度が4倍になるアクセサリーをもらった。
 自分とタツゴローとジキンとキャティそれぞれに行き渡り、そのアクセサリーの名前は【ブルースピード】だった。


「まずはアルマからの装備説明だ。これを見てくれ」


 展示品に並べられていたのは、透明感のあるソードとシールドであった。 
 ちゃんと凝視すると、クリスタルソードとクリスタルシールドという武具であったのだ。
 その隣には白銀のような鎧が立てかけられていた。


 その白銀のような鎧はプラチナフォエルという不思議な名前が記されている鎧であった。
 プラチナソードとプラチナシールドは課金者を遥かに超える装備である事が納得できた。

 
 よく課金者達は自分達の装備を自慢するために、ネットに自らの装備をのせる事がある。
 それを羨ましく見ていたのがアルマであった。

  
「見ての通り、4人に差し上げる装備は課金者を遥かに超える装備達だ。なぜわしが君らにこのような最強な装備を差し上げるかというと、お主達に期待をしたからだ。青い目玉を持って着てくれたこと、金銭的に危なかったところを解決してくれたこと、もちろん青い目玉にはアクセサリーを作るということもあるが、あるスキルを解禁させる方法でもあったのじゃ、かくしてこのような最強な装備達を製作出来たと言う訳だけど。おほん、長い話を失礼した」


 ジャスコはこちらを見ながらニコニコしている。
 アルマは心の底から驚いている。
 まるでゲームの主人公のようにとんとん拍子でいい事が起こり続けている。
 何かに騙されているのではないだろうかと、恐怖を抱き始めるものの、もっと冷静になれとアルマは自分自身にといかける。

 
「クリスタルソードとクリスタルシールドは対になる装備で、クリスタルソードとクリスタルシールドは合体する事が出来る。合体すれば、巨大なソードシールドとなる。使い方は癖があって慣れる必要があるがのう、プラチナフォエルは重装備ながらも俊敏に動く事ができる。あとは諸々と能力がある程度だ。それは自分で体験してくれ、おほん、ちょっと水を飲ませてくれ」

「この装備達をもらっていいのですね」

「もちろんじゃ、早速装備してみろ、課金者に間違えられるくらいになるぞい」

 
 ドワーフ族のジャスコはニコニコと笑いながら、こちらを見ている。
 水をちびちびと瓶で飲み干した。


 クリスタルソードを掴んだ時、まるで体に電撃が走ったかのようだった。
 本当にいいのだろうか、あまりにもゲームライフうまくいきすぎている。
 そう感じたのだが、よくよく考えたら、ウェイバリアンオンラインゲームでは散々な目に合った。
 これはその散々な目に合った償いを運営がしてくれている?


 そんな訳がない事をアルマは自分自身がよーく知っていた。

 
 迷いを払拭し、その装備を思いっきり握りしめたって。
 その瞬間装備がアイテムボックスに瞬間的に入った。
 そこから即座にブルースピードとクリスタルソードとクリスタルシールドとプラチナフォエルを装備した。
 そこには伝説のドラゴンナイトのような艶やかな青年がいた。

 
 アルマの顔はキラキラと光、まさか無課金者でここまで達してしまうとは思わなかった。
 アルマが感激していると、諸々の説明をドワーフ族のジャスコ老人が芝犬のタツゴローと鶏のジキンと黒猫のキャティに説明していた。


 3匹は頷いている。


 そしてついに彼らも新しい装備を身につけた。 
 次の瞬間そこはキラキラした空間になってもおかしくないほど、装備のオーラが凄かった。
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