6 / 11
6話 お花畑の者
しおりを挟むアルマ達はルルンの街の探索に再び足を踏み出した。
2時間後に電子アラームをセットして、タツゴローとジキンとキャティと一緒に露店街を歩いた。
このゲームの中では食べ物を食べる事ができる。
擬似食事とされ、食べた物の味覚や満腹感はゲーム内では存在している。
しかしログアウトすると擬似食事がなくなるので、胃袋は空腹感になる。
とても便利なシステムを採用しているのがウェイバリアンオンラインゲームであった。
「なぁ、主よあれはなんだ? 黒い味噌汁みたいなものがあるんじゃじゃ」
「あれはおしるこという食べ物で、とても甘いものです。食べてみますか?」
「もちろんじゃじゃ、皆も一緒に食べようじゃじゅよ」
「全くタツゴローはいつも甘いもんばかり、いつか巨大に太った犬になってしまいますのう」
「女子は甘いものが好きという定番ですわ」
老齢なジキンと少女のキャティが呟くと、無数に立ち並ぶ露店街の中で、おしるこを購入して1人と3匹は近くのベンチに座って食べることにした。
「こ、これはとてつもなく熱いでなのなの」
「猫は猫舌というしのう」
「こんなのへっちゃらだい」
キャティが息を吹きかけて冷やしながら食べている中でジキンとタツゴローは大食い選手のように片端から餅を食べていた。
2人の口の周りがあんこで汚れていく中、アルマも美味しいおしるこを食べる事にしていた。
それは突然やってきた。
まるで花びらのように舞い上がり、ゆっくりと舞い散るかの如く。
気づけば隣に座っている女性がいた。
年齢は自分と同じくらいだと悟る。このゲームでは年齢詐称が不可能であるのだ。
アバターの顔や形ですぐに判断できる人と出来ない人がいるが。
その女性は若造でなければ自分と同じくらいの年齢だと思われた。
「あたしはファナレイ、お花畑ギルドの創始者よ、あなたが噂の獣人を連れているプレイヤーね」
今、アルマはとんでもない言葉を聞いていた。
今まで謎のPKによりお花畑ギルドか? と尋ねられて、何度も殺された。
その元凶が今隣にいる。
桃色の着物を着用して、ゆったりと座っている姿は、歌舞伎で出てくる登場人物のように洗練されていた。
「まぁ、突然何を言い出すのか? 意味がわからないでしょうが、今、お花畑ギルドでは団員を募集していまして、あなた達にぜひとも加入してくださると」
「断ります」
「いえ、ゆっくり考えてください、じっくりと考えた方が、色々と見えてくるものがあるでしょう」
「一つ質問していいか?」
「もちろんですわ」
「なぜか俺はお花畑ギルドの者と勘違いされてPKをされまくったのだが」
「そうですか、それはとてもご迷惑を、お花畑ギルドでは課金をあまりしていない人を集めているので、あなたの装備がそう思わされたのかもしれないですね」
「なるほどね、ちなみにあなたは課金をしているのですか?」
「していませんわね、ではあたしはこれで失礼します」
またふわりと花びらが舞い上がると、忽然とファナレイの姿は無くなっていた。
「主、これうまーです。うますぎます。涎が止まりません、リアルでもおしるこください」
「わかったよ、タツゴロー、そろそろ武器と防具が出来た頃だから向かうとしようか」
「「「はい」」」
3匹のペット達は従順に付き従ってくれた。
=====鍛冶屋ジャスコの鍛冶場=====
ジャスコの鍛冶屋の扉をノックしてゆっくりと入った。
武器と防具が完成したようで、展示品のところに並べられていた。
ジャスコはニコニコしながら、こちらを見て微笑んだ。
「まずは青い目玉が50個もあったから、お前達に1人1個攻撃速度が4倍になるアクセサリーをプレゼントしよう」
「本当にいいのですか? 1個でもすごい額がするのでしょう? それなら売ってしまったほうが」
「確かに4個がなくなるのは痛手だが、それよりもお主との信頼関係が大事じゃ、これからも珍しい素材などがあったら持ってきてくれ、色々と交渉しようではないか、できればフレンド登録して欲しいのじゃ」
「それはもちろんです」
まるで鍛冶屋ジャスコと友達になったかのようにフレンド登録を果たした。
4個の攻撃速度が4倍になるアクセサリーをもらった。
自分とタツゴローとジキンとキャティそれぞれに行き渡り、そのアクセサリーの名前は【ブルースピード】だった。
「まずはアルマからの装備説明だ。これを見てくれ」
展示品に並べられていたのは、透明感のあるソードとシールドであった。
ちゃんと凝視すると、クリスタルソードとクリスタルシールドという武具であったのだ。
その隣には白銀のような鎧が立てかけられていた。
その白銀のような鎧はプラチナフォエルという不思議な名前が記されている鎧であった。
プラチナソードとプラチナシールドは課金者を遥かに超える装備である事が納得できた。
よく課金者達は自分達の装備を自慢するために、ネットに自らの装備をのせる事がある。
それを羨ましく見ていたのがアルマであった。
「見ての通り、4人に差し上げる装備は課金者を遥かに超える装備達だ。なぜわしが君らにこのような最強な装備を差し上げるかというと、お主達に期待をしたからだ。青い目玉を持って着てくれたこと、金銭的に危なかったところを解決してくれたこと、もちろん青い目玉にはアクセサリーを作るということもあるが、あるスキルを解禁させる方法でもあったのじゃ、かくしてこのような最強な装備達を製作出来たと言う訳だけど。おほん、長い話を失礼した」
ジャスコはこちらを見ながらニコニコしている。
アルマは心の底から驚いている。
まるでゲームの主人公のようにとんとん拍子でいい事が起こり続けている。
何かに騙されているのではないだろうかと、恐怖を抱き始めるものの、もっと冷静になれとアルマは自分自身にといかける。
「クリスタルソードとクリスタルシールドは対になる装備で、クリスタルソードとクリスタルシールドは合体する事が出来る。合体すれば、巨大なソードシールドとなる。使い方は癖があって慣れる必要があるがのう、プラチナフォエルは重装備ながらも俊敏に動く事ができる。あとは諸々と能力がある程度だ。それは自分で体験してくれ、おほん、ちょっと水を飲ませてくれ」
「この装備達をもらっていいのですね」
「もちろんじゃ、早速装備してみろ、課金者に間違えられるくらいになるぞい」
ドワーフ族のジャスコはニコニコと笑いながら、こちらを見ている。
水をちびちびと瓶で飲み干した。
クリスタルソードを掴んだ時、まるで体に電撃が走ったかのようだった。
本当にいいのだろうか、あまりにもゲームライフうまくいきすぎている。
そう感じたのだが、よくよく考えたら、ウェイバリアンオンラインゲームでは散々な目に合った。
これはその散々な目に合った償いを運営がしてくれている?
そんな訳がない事をアルマは自分自身がよーく知っていた。
迷いを払拭し、その装備を思いっきり握りしめたって。
その瞬間装備がアイテムボックスに瞬間的に入った。
そこから即座にブルースピードとクリスタルソードとクリスタルシールドとプラチナフォエルを装備した。
そこには伝説のドラゴンナイトのような艶やかな青年がいた。
アルマの顔はキラキラと光、まさか無課金者でここまで達してしまうとは思わなかった。
アルマが感激していると、諸々の説明をドワーフ族のジャスコ老人が芝犬のタツゴローと鶏のジキンと黒猫のキャティに説明していた。
3匹は頷いている。
そしてついに彼らも新しい装備を身につけた。
次の瞬間そこはキラキラした空間になってもおかしくないほど、装備のオーラが凄かった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる