白い魔女に魅入られて

shimishimi

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第二章 時間は巡る

想起

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「何があったの?」

 眉間に皺を寄せて詩織しおりは言った。

「いや、生きていてくれて良かったなと」
 頬に伝わらせながら本心をあらわにした。
 詩織は口をポカーンとしたが、直ぐさまその口を閉ざした。

 そして、一分程後に口を開いた。

「ループ……してきたのね?」

 探るように、信じられないようなゆっくりとした口調だった。

「そうみたい」
 直感。
 根拠も何もない。ただそう思った。
 あのなんとも言えない感覚が身体が覚えて覚えている。

「説明、してくれるよね? その……何があったのかも含めて」
「うん」
 窓の外を見やった。良い天気だな。
 視線を落とした所に一人の人間が見えた。

 聡太そうたがいた。

 生きている。

「詩織、ごめん。ここで待ってて」
「え? どういうこと? あ、ちょっと! 説明してよ!!」

「どこにも行かずにここで待っててくれ!」
 立ち去り際に、振り向いて言い残した。
 思ったよりも熱のこもった強い感じで。

 人をよけながら、階段を駆け下りて、ユーニーから飛び出た。
 曲がり角を態勢を崩しながら曲がった。

「聡太!!」

 !?

 なんでここに?

 こいつが!? 聡太といるんだ!

 血の気が一気に引いた。脳が身体中に警報を出した。逃げろと。

「ん? 悠矢、どうかしたか?」
 聡太は小首をかしげた。
「いや……、ちょっと上から見えたから……」
 自分が何を話していたかわからなかった。
 本能が叫んでいる。
 立ち去れと。

「そうか。なんかあったんかと思ったよ」
「ちゃんと、電話にはでろよ……」

 うまく平静を保てているのだろうか。
 逃げろと。
 死から。
 こいつから。

「ん? あぁ、すまん。マナーモード解除しとくよ」
「うん……。ありがとう」


 聡太よりも、聡太の隣にいる人間に釘付けになっていた。

 そいつは……あの俺たちを殺した――スーツを着た大柄の男。

 糸原羽衣司いとはら はいじ

 全部思い出した。

 こいつは……この男は、俺たち三人を顔色一つ変えずに容赦なく殺した。

「一限、来いよ」
「ん? ちゃんと行くよ。じゃぁ、またな」
 二人は俺の隣を通り過ぎた。糸原は俺を見向きもせずに。そこにいない存在として。

「それで、どこに行くんだ」
 脚を止めて振り返った。
「ん? 道案内頼まれてんだ」
 聡太は糸原を横目で示した。
 察せってか。

「ど、どちらまで?」
 糸原は初めて俺を認識したかのように、ゆっくりと俺を直視した。
 ゆっくりと近づいてきた。
 鼓動がはっきりと聞こえる。

「こちらまで行きたいのですが」
 と言って糸原は一枚のメモ用紙を渡してきた。
 恐る恐る手を伸ばして――受け取り、見てみるも、そこがどこだかわからなかった。
「魔女の家」
 と糸原は含みあるかのような言い方で、緩急つけた嫌な言い方で、俺を監視しているような言い方で、そう――尋問じみた言い方で。

「そのような場所があると伺いまして」
「……」
 もう一度メモ用紙に視線を落とす。
 これだけじゃ、どこかわからなかった。
 でも、……おそらく、――詩織の研究室が魔女の家ってのは間違いないのだろう。

「こ、ここに書かれている場所が、魔女の家ですか?」
 メモ用紙を糸原に返す。

「そうみたいなので」
 糸原は続けて言う。

「あ、申し遅れました」
 懐から手際よく名刺を出して渡してきた。
 名刺を受け取り見る。
 ジャーナリストか。

「私はジャーナリストをしておりまして。今度、難関私立大学の一つに数えられる大学の特集を組むことになりまして、私が律証館大学を担当することになりました。その取材です」
 疑いの目を向けた。
 糸原は続けて言う。
「最近、律証館大学で七不思議というものがネットで流行っているそうで、上がそれも特集に入れろっと言われましてね」

 ニコッとまた笑みを浮かべた。背筋が凍る。それが不気味なだったのではない。あまりにも自然で人間味ある優しい笑顔だったから。あの――俺を葬った――死んだ顔からはとうてい考えられなかった。

「なにか知っていることはありませんでしょうか?」
 期待の目を向けてきた。牽制でも疑いでもなくて期待。
「いえ……知りません。今日初めて知りました」
「そうですか……」
 残念そうにして糸原は言った。そんなこと微塵も感じないであろうに。

「聡太はここの場所知っているのか?」
 聡太に話を振った。
「いや、全然。でも、地図あるから行けそうじゃね?」
 こいつの適当な言葉には驚いた。

 糸原もさすがに驚いた表情を一瞬浮かべた。しかし、すぐにその表情は平静を保ったものに変化した。

 というか、こいつ……とりあえず引き受けた感じかよ!
 でも、これで糸原は聡太の利用価値はないとわかったはず。

 だが、そんな期待もむなしく散った。

「とりあえず、案内の途中だから行くわ」
「聡太!! …………後で話があるから来いよ! 電話する!」
 指をビシッと聡太に指し示した。
「お、おうよ」

 そんなんでびっくりすんなよ。
 二人は踵を返して去って行った。
 二人が見えなくなるまで見ていた。

 クソッ。

 どうなってんだ? 俺の周りで何が……?
 右手に力を込めた。

 名刺がくしゃっと皺が入った。

 俺の右手にある名刺に書かれていた名前は――――

 ジャーナリスト
 藤岡政志ふじおか まさし

 だった。
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