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第二章 時間は巡る
帰路
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こんなに疲れたのは久しぶりだった。
「今日はもう帰りなさい。疲れているでしょ? また明日以降に詳しく話しを聞かせてもらうから」と詩織に促された。
本当は少しでもいいからこの謎現象の手掛かりを得たかったが疲れていたのも事実だった。
しかし、詩織はその言葉とは裏腹に
「それで次はいつ学校に来るの?」
と念を押してきた。
そういうわけで明日また詩織の元へ行くことになった。
明日は一限から授業があるが、その前に少し事情聴取されることとなった。
朝5時起きが確定した瞬間だった。
学者って奴は人のことより好奇心を優先するようだな。
俺は詩織の研究室からバス停へと向かった。
街灯もろくに無い真っ暗な道だったが、詩織に言われた手順で行くとすぐ知っている道に出た。
道中に、サークル終わりか部活終わりかなにかで残っていた友達と会った。
軽く挨拶しただけなのに、返ってきた言葉は皆似ていた。
「顔色がない」
「疲れた顔してんなー」
「顔死んでるぞ」
「早よ寝んとーよ」
仕方ないだろ? あんなことがあったんだから。
そうこうしているうちにバス停に着いた。止まっていたバスに乗り込んだ。
中は閑散としていた。
何も考えないで、入口近くの二人席に座った。
それからはただの帰り道だった。
窓の外を眺める。
いつもと同じだった。
いつもと同じ道。
いつもと同じ光景。
いつもと同じ機械音。
何もなかった。
これが――――幸せってやつなのかな?
「――――う、めい――――そ――ごいぞ――んせ――い――」
眠かったせいなのか意識がおぼつかなかった。バスの揺れぐらいも重なって一層夢の世界へと誘われる。
そんな朦朧とした意識の中、男の声が聞こえた。
虚ろな世界で聞こえた言葉は聞き取れないものだった。
体が前へ勢いよく引き寄せられた。
ゴン
柵に頭をぶつけた。
ヴッ
鈍い声を上げた。
「いったー」
頭を抱えながら前へ視線をやる。
運転手のアナウンスが聞こえてくる。
申し訳なさそうでもヒヤリとした感じでもなく、苛立ちが混じった声。
急停止したみたいだな。
……やっぱり……運転免許取るの辞めようかな。
プッシュー
バス停に止まった。
すると――黒い影が後ろから現れた。
威圧感があった。
後ろを見ようと、首を回し――――大柄の――真っ黒いスーツを着た男が――――現れた――横を――悠然と――通り
「ラプラスの悪魔」
とだけ呟いた。
電話――をしているのかイヤホンを耳に付け相槌を打っていた。
その男はそのままバスを降りた。
……ラプラスの悪魔??
なんだそれは?
…………。
少し考えたが、途中で辞めた。
疲れ切った頭で考えても何もわからない。
バスに揺られ、真っ暗な外を眺めた。
相変わらず、街頭が不気味にポツポツと灯っている。
その後は、昨日と打って変わって何もなかった。
何もなく、JRの電車を乗り継いで地下鉄を乗って家へと向かった。
家に帰ると用意してあった晩飯を食べて風呂に入った。
時刻は午後11時をとうに過ぎていた。
今日は後一時間もしないうちに過ぎ去る。
「はぁぁー」
ため息ともうめき声ともいえない声を上げながら、ベットに倒れ込んだ。
「ねむっ」
ズボンのポケットにしまってある携帯を取り出した。
一先ず、アプリゲームをあさって、飽きたらYouTuberを開けておすすめ動画にあった適当なものをつけた。特に興味もなく、ボーッと眺める。
ブー。
バナーからなにか出てきた。
LINEの通知音って鳴るようにしてたっけなー?
メールだった。
反射的に上にスワイプした。
それでも、それが何かはわかった。
それも電話会社が適当に出しているのでも、広告メールでもスパムメールでもなかった。
多分……。
動画を止めないでYouTuberを閉じた。
赤丸の二桁の数字のアイコンが出ているメールを開いた。
あった。一番上に。
見覚えのない、聞き覚えのある名前を押して開く。
差出人 加藤詩織
宛先 新島悠矢
件名:仮説提唱しました。一読お願いします。
突然の御連絡失礼いたします。
律証館大学 理工学部 物理学科の加藤詩織です。
御確認のためのメールをお送りしました。
恐れ入りますが、確認のため御返答を頂ければ幸いです。
堅苦しい文体が書かれていた。
そういや、メアド交換したなー。理系って感じの堅い文だなー、自分も理系だけどさー。
とかぼんやりと思う。
下へと進む。
悠矢が言っていたこと気になったからいろいろと考えてみたの。
全部仮説なんだけどとりあえず書き連ねるから読んでおいてね。
さっそく、一つ目の仮説なのだけれど――――
いきなり砕けたな。
そもそも今時、連絡手段がLINEじゃなくてメールってよく分からんな。
確かに、LINEとメールじゃ与える印象は違うが……。
そういや、携帯を持っている節なんてなかったな。手ぶらだったし。連絡先交換のときも自分のメアドを暗証してたな。さすがに紙に書いてくれないと覚えられないから、俺のメアドを見せたんだっけな。……、一度読み上げただけで大丈夫とか言ってたな。
あの研究室とかだってパソコンにお一台もなかったし。
彼女は、何をしているんだ?
…………。
頭まわんねー。
辞めた。明日本人に直接聞けばいい。今はメールを読むだけでいい。
夢現の中、メールを軽く読んだ。
そして、考えた。
全然わからなかった。
そもそも頭に入らなかった。
今日はもう無理だな。
そして――俺は目を閉じて眠りについた。
「今日はもう帰りなさい。疲れているでしょ? また明日以降に詳しく話しを聞かせてもらうから」と詩織に促された。
本当は少しでもいいからこの謎現象の手掛かりを得たかったが疲れていたのも事実だった。
しかし、詩織はその言葉とは裏腹に
「それで次はいつ学校に来るの?」
と念を押してきた。
そういうわけで明日また詩織の元へ行くことになった。
明日は一限から授業があるが、その前に少し事情聴取されることとなった。
朝5時起きが確定した瞬間だった。
学者って奴は人のことより好奇心を優先するようだな。
俺は詩織の研究室からバス停へと向かった。
街灯もろくに無い真っ暗な道だったが、詩織に言われた手順で行くとすぐ知っている道に出た。
道中に、サークル終わりか部活終わりかなにかで残っていた友達と会った。
軽く挨拶しただけなのに、返ってきた言葉は皆似ていた。
「顔色がない」
「疲れた顔してんなー」
「顔死んでるぞ」
「早よ寝んとーよ」
仕方ないだろ? あんなことがあったんだから。
そうこうしているうちにバス停に着いた。止まっていたバスに乗り込んだ。
中は閑散としていた。
何も考えないで、入口近くの二人席に座った。
それからはただの帰り道だった。
窓の外を眺める。
いつもと同じだった。
いつもと同じ道。
いつもと同じ光景。
いつもと同じ機械音。
何もなかった。
これが――――幸せってやつなのかな?
「――――う、めい――――そ――ごいぞ――んせ――い――」
眠かったせいなのか意識がおぼつかなかった。バスの揺れぐらいも重なって一層夢の世界へと誘われる。
そんな朦朧とした意識の中、男の声が聞こえた。
虚ろな世界で聞こえた言葉は聞き取れないものだった。
体が前へ勢いよく引き寄せられた。
ゴン
柵に頭をぶつけた。
ヴッ
鈍い声を上げた。
「いったー」
頭を抱えながら前へ視線をやる。
運転手のアナウンスが聞こえてくる。
申し訳なさそうでもヒヤリとした感じでもなく、苛立ちが混じった声。
急停止したみたいだな。
……やっぱり……運転免許取るの辞めようかな。
プッシュー
バス停に止まった。
すると――黒い影が後ろから現れた。
威圧感があった。
後ろを見ようと、首を回し――――大柄の――真っ黒いスーツを着た男が――――現れた――横を――悠然と――通り
「ラプラスの悪魔」
とだけ呟いた。
電話――をしているのかイヤホンを耳に付け相槌を打っていた。
その男はそのままバスを降りた。
……ラプラスの悪魔??
なんだそれは?
…………。
少し考えたが、途中で辞めた。
疲れ切った頭で考えても何もわからない。
バスに揺られ、真っ暗な外を眺めた。
相変わらず、街頭が不気味にポツポツと灯っている。
その後は、昨日と打って変わって何もなかった。
何もなく、JRの電車を乗り継いで地下鉄を乗って家へと向かった。
家に帰ると用意してあった晩飯を食べて風呂に入った。
時刻は午後11時をとうに過ぎていた。
今日は後一時間もしないうちに過ぎ去る。
「はぁぁー」
ため息ともうめき声ともいえない声を上げながら、ベットに倒れ込んだ。
「ねむっ」
ズボンのポケットにしまってある携帯を取り出した。
一先ず、アプリゲームをあさって、飽きたらYouTuberを開けておすすめ動画にあった適当なものをつけた。特に興味もなく、ボーッと眺める。
ブー。
バナーからなにか出てきた。
LINEの通知音って鳴るようにしてたっけなー?
メールだった。
反射的に上にスワイプした。
それでも、それが何かはわかった。
それも電話会社が適当に出しているのでも、広告メールでもスパムメールでもなかった。
多分……。
動画を止めないでYouTuberを閉じた。
赤丸の二桁の数字のアイコンが出ているメールを開いた。
あった。一番上に。
見覚えのない、聞き覚えのある名前を押して開く。
差出人 加藤詩織
宛先 新島悠矢
件名:仮説提唱しました。一読お願いします。
突然の御連絡失礼いたします。
律証館大学 理工学部 物理学科の加藤詩織です。
御確認のためのメールをお送りしました。
恐れ入りますが、確認のため御返答を頂ければ幸いです。
堅苦しい文体が書かれていた。
そういや、メアド交換したなー。理系って感じの堅い文だなー、自分も理系だけどさー。
とかぼんやりと思う。
下へと進む。
悠矢が言っていたこと気になったからいろいろと考えてみたの。
全部仮説なんだけどとりあえず書き連ねるから読んでおいてね。
さっそく、一つ目の仮説なのだけれど――――
いきなり砕けたな。
そもそも今時、連絡手段がLINEじゃなくてメールってよく分からんな。
確かに、LINEとメールじゃ与える印象は違うが……。
そういや、携帯を持っている節なんてなかったな。手ぶらだったし。連絡先交換のときも自分のメアドを暗証してたな。さすがに紙に書いてくれないと覚えられないから、俺のメアドを見せたんだっけな。……、一度読み上げただけで大丈夫とか言ってたな。
あの研究室とかだってパソコンにお一台もなかったし。
彼女は、何をしているんだ?
…………。
頭まわんねー。
辞めた。明日本人に直接聞けばいい。今はメールを読むだけでいい。
夢現の中、メールを軽く読んだ。
そして、考えた。
全然わからなかった。
そもそも頭に入らなかった。
今日はもう無理だな。
そして――俺は目を閉じて眠りについた。
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