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3話 ごほうび、さしあげます。

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 ごっくん。私は遂に……ピーマンを全て、食べきった。
 
「レミ、おねえちゃん……ちゃんと全部食べたよ」
 
「とても、とてもよくできました……流石お嬢様です」ぱちぱち、とレミは自分の事のように喜んでくれる。
 
「おねえちゃん呼び、本当はよくない……ですけれど、二人きりのときなら……いいでしょう。………レミとしては呼ばれて嬉しいですし」照れくさそうに彼女は顔を赤らめる。
 
「うん。二人っきりのときにこっそり呼ぶね、レミおねえちゃん」私はにこにこと笑顔で返す。二人の秘密ができたようで、嬉しかった。
 
 すっ、と私の頭の上にレミの手が置かれる。「ピーマン食べたごほうびです。よしよし」そしてゆっくり、なでなでしてくれる。思わず頬がゆるむ。うれしい。うれしい……けれど。
 
「こ、これだけ?」
 
「ええ、そのつもりです」なでなでし続けながら、きっぱりとレミは言う。
 
「そっかぁ……」私はしょぼんとしてしまう。
  
「……ですけれど」レミは手を軽く引き、私を立たせる。
 
「けれど?」期待を胸に秘め、私は聞き返す。
 
「わがまま言わず全部食べてくださったので……もう少し、ごほうび差し上げます」レミは私の肩をそっと掴み、ゆっくりと自分の方へ引き寄せる。
 
 ぎゅっ。私は、レミに優しく抱きしめられた。暖かくて柔らかな感触が包み込んでくる。ふわり、と爽やかなのに甘いレミの香りが鼻先をくすぐる。
 
「あっ……」ふにゃあ、と自分の表情がとろけていくのがわかる。
 
 抱きしめられるのはとってもとっても大好きで、それこそピーマン大嫌いな昔はよくレミにおねだりして抱きしめてもらってた。今となってはもう、恥ずかしくって言えなくなったけれど。
 
 ぎゅっと、抱きしめ返す。レミおねえちゃんの、胸の中に顔を埋める。メイド服越しに、ふわふわした感触が伝わってくる。
 
「ふふふ、お嬢様はまた一段とかわいくなられましたね……」また頭をなでなでしてくれる。
 
「だいすき……」心の声が、口をついてでてしまう。
 
「もう……メイドにそんなこと言っちゃ、だめですよ。でも……とってもうれしいから、許します」レミは
 
「レミも……お嬢様の事、だいすきです」耳元でやさしく、ささやいてくれる。ちゅ、と口づけのおまけ付きで。喜びで背中がぞくぞくと、ふるえる。全身がぽかぽかと、あつくなってくる。
 
 すき、すき……。ずっとだきついていたい……。
 
「……さて、お嬢様」レミは少し、私から体を離す。
 
「も、もう終わり……?」私は彼女を見上げる。
 
「そんな切なそうな顔しないでください。今日一日……寝る時まで、抱きついてもいいですから。そうではなくて、もう一つ」
 
「もう一つ?」
 
「最後に……これはお嬢様がごめんなさいしてくれた……いえ、レミのお嬢様への気持ちです」
 
 私の顔……左右のほっぺを両手で包み、ゆっくりと顔を近づける。口移しをしたときのように、唇を私の口に近づける。でもその口には、何も挟まれていない。
 
 ほんの少し、顔を前に出せば。
 
「き……きす?」私は期待を込めて、聞いてしまう。
 
「はい。お嬢様がよろしければ……口づけをしたいのですが、いいですか」
 
 じいぃっ、とレミは私の瞳を見つめてくる。……優しくて、本気の瞳だ。そんな目で見つめられたら、嬉しさで胸がきゅんきゅんして、私は素直に従ってしまう。
 
「うん……ちゅーしていいよ……ううん、してください」私も見つめ返す。それはきっと、甘える本気の瞳だ。背中に手を回し、キスを受け入れる準備をする。
  
「ありがとうございます。お嬢様、愛して……ます」レミは目を閉じて、そっと唇を寄せてくる。私も目を閉じて、キスを……キスだけを受け入れて、感じようとした。
 
「「……んっ」」
 
 メイドとお嬢様。レミと私は……結ばれた。
 
 恋の味は苦くて……甘かった。
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