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Ⅱ
しおりを挟むロジェ王子が待ち望んでいた3歳を迎える少しのこと。
ロジェとジャックが中庭で倒れた。
中庭にて、執務中の王を待っている時のこと。
「ロジェ王子!!ジャック様!!…誰か!誰か医者を!」
彼らが飲んでいたお茶には毒が入っていた。
「2人の容態は!?!ジャックとロジェは、無事なのか!」
王は酷く苛立ち、青ざめながら立ち入りを禁止された治療室の前を歩き周り、神に祈った。
3日後、致死量相当の毒に幼い体は耐えられず、ロジェ王子は短すぎる生涯を終えた。
あと2ヶ月程経てば世間に王子として認められるはずだった。
毒を盛った犯人が見つかり、雇い主は誰かと拷問にかけられたが犯人は自ら舌を噛み切り絶命した。
王は憎しみからその遺体を何度も切りつけたという。
雇い主は恐らくジャックとロジェを厭わしく思っている貴族達だろうが、確かな証拠がない以上は手出しをできなかった。
ジャックにロジェ王子が他界したことは知らされなかった。生死の狭間にいるジャックにそんなことを伝えれば体に障ると皆が判断したからである。
王は悲しみに打ちしがれながらも、ただ1つの希望であるジャックの傍で彼の回復を祈った。
王子の葬儀が静かに終わって2週間後。
ジャックの病状は少しだが良くなりつつあり、体を起こして話せるほどにまでなった。
しかし、彼の体には大きな穴ができた。
もう二度と、子供を成せない体となってしまったのだ。
毒にはそういった作用があったらしい。
「…陛下、ロジェは無事…?」
白湯を飲みながら弱々しく尋ねるジャックの問いかけに部屋にいる者たちは口をつぐみ目を逸らした。
涙が溢れそうになり、静かに部屋を出る者もいた。
王はジャックを強く抱きしめて愛しい我が子の死を告白した。これ以上、隠すことは出来なかった。
「…そ…んな…嘘だ、嘘だ!!…まだ3つにもなってないのに…っそんな…嫌だ…っロジェ…!」
我が子を失った悲しみに、悲痛に泣き叫ぶジャックを王は強く抱き、静かに涙を流した。
その日からジャックは廃人のように、ぼんやりとする日が増えたという。
食もより一層細くなり、時には白湯しか口にできない日もあった。
王はそんなジャックから離れず、執務も可能なら病室で行い、暇があれば彼のそばにいた。
ジャックはみるみるやせ細り、笑顔を見せることもなくもはや流す涙もないように、ただ静かに窓の外を見ていた。
もう后を務められる体では無い。
早々に判断したあの大臣達は競って自分らの娘を王の妻にしようと話を進めていた。
「ジャック以外を妻にするつもりは無い」
王の意思は硬かったが、それ以上に大臣達は欲深く、諦めなかった。
「陛下!!ジャック様が…」
「ジャックがどうした?!」
「部屋から…いなくなってしまい…皆で探してはいるのですが」
「人を増やせ!…俺も探す!」
執務室から飛び出し、心当たりの場所を必死に探し回った。
あの彼の状態では、1人で出歩くのは危険だ。そして何より、また命を狙われてしまったのではないか。
嫌な予感は当たるものである。
数日後、ジャックは酷い傷を負った状態で発見された。
やせ細り、白い体についた無惨な傷、かつて王や人々を魅力した顔には消えぬ傷が残っていた。
「生きていてよかった…お前を失えば俺は…!」
「俺は…もう美しくない…それでも…愛してくれる?」
「もちろんだ。…お前がお前である限り俺はお前を誰よりも愛している」
そう言って弱った体を王は抱きしめ何度も口付けた。
ジャックはその夜、王に抱いて欲しいと頼んだ。王は体に障ると反対したがジャックがどうしてもと、懇願し、ゆっくりと1晩かけて王はジャックを愛した。
数日後、ジャックは静かに息を引き取った。
衰弱死である。
王はジャックの遺体を掻き抱き、声を上げて泣いた。犯人は処刑されたものの、やはり雇い主は確証しなかった。
ジャックの葬儀が行われ、ロジェ王子の墓の隣にジャックの墓石がたてられた。
王に悲しみに浸る時間はなかった。
国の為に、大臣の娘を娶り、いつものように執務をこなした。
その日から明るく、若々しいかつての姿は消え、窶れて老けたような王の姿がそこにあった。
新しく妻となった娘は我儘で、傍若無人な者だった。王の妻になったはいいものの、相手にされないことをいい事に贅沢を尽くし、ジャックの悪口をところ構わず言いふらした。
しまいには、愛人を作り、その子まで身篭ったというが、王は関心がなく「嫡男として産めば良い」とだけ告げた。
第1王子として生まれたその男の子はレイアと名付けられ、その母と同じように甘やかされて育ったという。
レイアが6つになる頃には王は見る影もなく窶れた。そんなある日、ふとベットサイドのランプの傘に何か挟まっているのを見つける。
──愛する俺の王へ
────あなたを愛するジャックから
震える手で紙を開き、読み進める度に王の目から涙が零れ嗚咽を漏らした。
『出会えた日、あなたの目の前で舞ったあの時、あなたと番になった日、ロジェを身篭った日、ロジェが俺らの前に生まれた日。
どれも、一日一日が俺には忘れられないほど大切だ。
ただの踊り子だった俺を見つけて、愛してくれてありがとう。
俺は永遠に、あなたを愛し続ける。』
最後の段落で王は泣き崩れた。
そしてその手紙を胸に抱いてロジェとジャックの墓の前に歩いていくと腰に下げていた短剣でその胸を貫いた。
「俺も…永遠に…お前を愛…す」
心から幸せそうにそうつぶやき、王は息絶えた。
夜中であったからか、王の姿が見えないと騒ぎになる中、既に息絶えた王の元に黒いローブを深く被った1人の男がやってくる。
フードを脱いだその顔は大きな傷が幾つもあった。
その男は涙を流して微笑むと王の胸を刺し貫いた短剣で自らの胸を貫いた。
王に折り重なるように倒れた男は幸せそうに呟いた。
「あなたの中で…俺は美しく死ねた…やっとあなたとひとつになれた」
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