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俊の話
.
しおりを挟む「バイトをしたい??」
「…はい」
湧達と対面した日の夜、風呂から上がると神妙な面持ちで一期が「バイトをしようと・思ってて」と切り出した。
「なんか欲しいものでもある?」
「いや…そうじゃなくて…ずっとお世話になるのも、悪いし…」
「そんなこと気にしなくていいんだよー?遠慮しないでって言ったし」
彼のやってみたいことは何でもさせてあげよう、そう思っていた。
けれど出ていく、と言われると少し心が焦る。
「…でも…よ、良くないって思って。アルファとオメガが一緒に住むのも…俺なんかがこんなとこにいるのも。だから…お金を貯めてちゃんと1人で暮らします。もらった給料とかも貯めてるから…家事とかはちゃんと通ってやります」
「え…と…そうだなー…いやー…うん。」
出てかなくてもいいじゃないか。とはいえなかった。
彼の言うことは正しい。
番じゃないアルファとオメガが同じ部屋に住むことはあまり良いこととされない。
頷こうとする気持ちに何かが歯止めをかける。
「…一期、何か不満でもある?」
「は?…いや、何も。…不満はないです。むしろ、恵まれすぎてて…」
言葉を迷うように狼狽える彼をソファに座らせて落ち着かせる。
「急にどした?…俺は一期がいてくれて現に助かってる。感謝してるよ。…けどそんなに言うってことは俺が何かしちゃったかな?なんて」
「や、そんな…俊さんは何も悪くないです。俺が…勝手にやってるだけで…」
「そっか…とりあえず、出ていくいかないは別として、なんでそうなったのか聞いてもいい?…何言われても大丈夫だから、本当に怒らないし」
「あ、でもそう言って怒るのが定番か」と付け足すと彼の表情が少し和らぐ。
「…上手く言えないんですけど…俺、このまま家にいていいのかなって思って。…俺は体も売ってきたし、普通じゃない仕事もしてきたからこそ思う、俊さんは俺が独り占めしていい人じゃない。…俺は、俺じゃなくてもいいって思う。もしまた俺みたいなやつがいたら、俊さんはまた連れてくる。…優しい人だから、わかってるのにそれが嫌で。ここにいると、俊さんを独り占めしたくなるから、そうなる前に出てかなきゃいかない…です」
話を聞き終えても、言葉が出ない。
何から返せばいいのだろう。
「…すみません、変なこと言って。…風呂行ってきます」
宇宙猫状態の俺を見ていたたまれなくなったのか、彼は逃げるように風呂場へと向かっていった
遠くでシャワーの音が聞こえるとやっと我に返り、頭を抱える。
確かに、無闇にオメガとアルファが同居するべきじゃない。それに彼はまだ若い。こんなおっさんがここにとどめておいていいものじゃない。
そんなことは分かりきっている。
分かりきっているのに、手放せない自分が情けない。彼に頼りきってしまっている。
家事なんて一期でなくても出来る。
人ぐらい雇うことなど造作もない。
また一期のような子を見つけたら拾って、彼と同じようにここに住まわせるのか?
家族のように一緒に暮らすのだろうか。
全く想像ができない。
今の彼との生活はあまりに居心地がよすぎる。
第2性や年や諸々の問題を考えても尚、俺は彼を素直に手放せない。
情けない。
それほど彼に依存してしまっている。
恋、という感情を向けるには俺と彼の間には問題がある。
依存だ。
早め早めに手を打たないと、彼もそう言っている。
が、そんな気にもなれない。
「一期のいない生活…か」
口に出すと一層寂しさと虚しさは増すばかりだった。
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