209 / 219
俊の話
.
しおりを挟む「…俊さん、起きてください」
煩わしいアラームの音と、控えめな声色が意識を夢から引き上げる。
ぼんやり目を開けると1週間前は無機質だった白い天井に一期の少し焦った顔が目に入る。
「おー…一期、おはよう」
呑気に起き上がり彼の頭をぽん、と撫でると「遅刻しますよ」と時計を指さしてくる。
確かに時計は通常の起床時間を15分ほど過ぎていた。朝の15分というのは貴重だ。
ベッドから降りると若干急ぎ足で洗面所へ向かい顔を洗い、軽く髪を整える。
先程からリビングからいい匂いがする。
数日前から本格的に家政夫として動いてくれている一期だが、朝起きたり帰宅してから美味しい温かいご飯があるのが嬉しくて仕方なかった。
洗濯物もされていて、お風呂も用意されている。
まだ数日しか経っていないが至れり尽くせりのこの生活にズブズブと沼っていきそうだ。
「今日はパンケーキ?」
「はい。…美味しそうだったから。甘いのも好きだって聞いたし」
気に入ってくれたか?とこちらを伺うように焼きたてのパンケーキをはちみつやジャムを添えて出してくれる。
彼は料理にハマったのか、買い与えたレシピ本を読みふけり、買ってあげた携帯でレシピを探したりしている。
そのせいか彼のご飯は美味しい。元々、バイト先の1つで飲食店があったらしく、料理はできるらしい。
「美味…!」
「ありがとうございます。」
「これ、お弁当…」と丁寧に包まれたお弁当袋を差し出してくれる。
毎日昼はコンビニか外食、もはやゼリーや健康食品なんかで過ごす日もあったので感動だ。
会社の社員達が「彼女が出来たのか」と次々に聞いてきたが、素直に「少年を拾って家政夫をしてもらっている」とは言えずに「家政夫を雇った」とはぐらかした。
「じゃ、行ってくるから。…留守番気をつけて」
「はい。…ぃ、行ってらっしゃい」
慣れなさそうに送り出してくれた彼の頭を撫でて家を出る。
なんだか心が軽い。一期には癒されるというか、なんというか。
マイナスイオンでも出ているのだろうか。
彼はゆっくり寝ているからか、心労が和らいでいるのか、よく食べているからなのか。心做しか頬の痩けや体の骨浮きがマシになってきている。
肌や髪のツヤも良くなって、顔色も表情も良い。
そうなってくるとやはり、予想通り彼は顔が良い。手足が長くスタイルも良い。これからが楽しみだ。
なんだかスキップしてしまいたくなる。
おじさんが恥ずかしいな、なんてロビーのコンツェルジュに挨拶をされて我に返った。
1
お気に入りに追加
1,512
あなたにおすすめの小説


夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる