206 / 219
咲夜の恋路
.
しおりを挟む「おはよ」
「…はよ」
だる、と思いつつすずしい電車から暑い駅外へ出ると咲夜が声をかけてきた。
暑いのに待っててくれたのかな。
「ここ、暑かったでしょ…そこの待合場で待ってれば行ったのに…」
「いいの。俺が1番に蓮迎えたかったから」
「行こっか」と歩き出した咲夜の姿を見て俯く。
かっこいいなぁ。
本当にかっこいいし、笑った顔は犬みたいで可愛いし。
道行く女の子が咲夜を見る度に思う「俺の彼氏かっこいいでしょ」って。
「蓮、模試の自信ある?」
「んー…ぼちぼち」
「流石」
2年の二学期に突入してしまった。
ぼんやり進学のことを考える時がたまにある。
成績もこのまま行けばある程度の所まではいけると言われてはいるが、それ即ち今以上にオメガの少ない場に行くということだ。
家に負担もかけたくないし、奨学金のことも考えるともう少し成績伸ばしたいし…というより、そもそも自分は将来どうしたいのかもよく分からない。
「将来、安定な仕事って何かな…」
「え?…そうだなー…医者?とか医療系…とか教員とか」
「…そか」
「蓮悩んでるの?」
「まあね。…やっぱ手に職かなて、俺オメガだし安定した職の方が安心する」
「確かに」
「ま、ゆっくり考えればいいよ。蓮は俺より賢いし、選択肢も広いよ」と咲夜が頭を撫でてくれる。その手に何度安心させられただろうか。
その手を取って頬に擦り付ける。
暑いけどいいもんね、なーんて
「ちょ、俺手汗凄いよ」
恥ずかしそうにそう言う咲夜は乱暴に手は外そうとしない。
俺が怪我したら嫌だから、とか言うんだろうけどそういうとこが可愛い。
「いいよ…俺、咲夜の手汗好き」
「もう…変態チックなこと言わないの」
笑っていると周りを確認して彼が頬にキスしてくれた。
「これで我慢ね」
「ん」
自分らの高校はオメガが少ない。
だからか、どのオメガやアルファが誰と付き合っているとかは大体知れている。
勿論、俺と咲夜が付き合っているのも皆知っていたし違和感もなかったらしい。
好都合っちゃ好都合だけど。
たまに他のオメガの子と交流する時もある。相手がいる子はまあいいとして、いない子は嫌いじゃないけど一応警戒はしてる。
俺が他のオメガから咲夜を守らないと、という心意気である。
「あ、ゆきパイセン~…」
校門をくぐったところで前方に見慣れた後ろ姿を見つける。
自然に咲夜が鞄を持って送り出してくれたのでその後ろ姿に駆け寄った。
「わっ…蓮君、おはよ。びっくりしたな、もう」
ふふ、と優しげに笑うゆき先輩。ゆき先輩は柔らかい人でお姉さんって感じ。
すごくいい匂いのする。
ゆき先輩はオメガだけどいい匂いっていうのは、フェロモンとかじゃなくて安心する柔軟剤のいい匂いって感じ。
表現するならママ。
安心するからよく甘えに行ってるけど、咲夜もこれは知っていて「姉妹みたいだな」と言われる。
「ゆき先輩…今日いつもと違う匂い」
すん、と先輩の制服の匂いを嗅ぐと「バレたか」と頭を優しく撫でられる。
「お泊まりだったから、いつもと違うんだよ」
ふふ、と笑う先輩は「色っぽい」。
「わー、先輩エッチだ…」
「蓮君人のこと言えないでしょ。咲夜君の匂いプンプンの時よくあるよ」
つん、とおでこをつつかれる。
ゆき先輩は優しくてオトナ、彼氏がいるらしいけど誰かは分からない。
学校のマドンナでもあるけど、相手の情報は謎に包まれてるとか。
無理に詮索する気もないしな、と飴を貰って咲夜の元に戻った。
1
お気に入りに追加
1,511
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
※※7話の部分に6話が重複して投稿されてしまっていたのを修正しました。大変失礼致しました※※
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる