こっち見てよ旦那様

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俊の話

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「乗り物酔いとか大丈夫?」

「…大丈夫です」

「よし、出発」

契約書を見せ、馴れ合いがてら買い物に連れていくことにした。
いきなり知らないおじさんから「家政夫にならないか」なんて言われたら不審に違いない。
とりあえず自分のことを知ってもらわねば。

…ちょっと待て、俺この子の名前知らないな。

後部座席に落ち着きなく座る少年をちらりと見る。

「今更だけど、名前なんて言うんだい?」

「すみません、自己紹介してなくて…俺、一期いちごです」

「いちご…?」と果物のイチゴをイメージしていると一期君は「キラキラネームみたいですよね」と自虐風に笑った。
地雷だったか。

「か、漢字は?どういうふうに書くの?」

「えっと…一、に期間の期、です」

「一期一会の一期か。いい名前だね」

「おじさんは好きだぞ~」なんて冗談めかして言いつつもいい名前だと思った。

彼を虐げた母はどんな思いでこの子にこの名前を付けたのだろうか。




ショッピングモールにつき、初めに向かったのは服屋。
好みが分からなかったので、とりあえず無難にユニ〇ロとかをハシゴして一期の服を買った。

痩せこけているけれど、元は綺麗な顔だと思うしスタイルもいいはずだ。
ユニ〇ロが似合うたぁ…羨ましい限りだ。と弟の旦那をぼんやり思い出しつつ一人でうんうん頷いた。

「こんなに…ありがとうございます」

「遠慮しないで。まだまだ買うからね」

キョロキョロと辺りを見渡す彼を連れ回し、日用品やらを買い集め、最後の目的へと向かう。


「どれがいい?」

「え…いいんですか、これ」

「記念にね。それに、ちゃんとしたものを付けてないと危険だからね」


最後の目的は首輪。
今は仮で弟に合わなかったものをつけているが、自分のものを付けるべきだと思う。

革製のしっかりとしたものだ、持ってて不便はないだろう。

「ぁ…ありがとう、ございます…ほんとに」

「いいんだって。ほら、選びな選びな」

彼が選んだのは上品な緑。
その場で名前を入れてくれるサービスがあるらしく、椅子に腰掛けて二人待っていると彼が口を開く。

「…わがまま1つ、いいですか」

「何何?」

「欲しいものがあって」

「何でも言ってごらん」

「…本」

「本?小説とか?」

「…料理の本」

「料理?…好きなの?」

「いや。…毎日、家政夫になったら料理しなきゃいけないから」

そうかそうか、後で買いに行こうかと俯き気味で顔が赤い彼の頭を撫でてその意図に気がつく。

「…ほんとに?」

「…はい」

「買い物したから恩とか感じて…とかだったら駄目だよ?ほんと、嫌なら」

「嫌じゃない。働かせてください」

キッパリと言い切ったな…。

「そ、そう…じゃあ、お願いします」

こちらも思わず頭を下げる。
なんか楽しいな…なんて年甲斐もなくそう思って彼の頭をもう一度撫でた。

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