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俊の話
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しおりを挟む透の実兄 俊の話です。
俊は透の実家の会社を引き継ぎ、潤也の子会社とも提携しつつ会社を建て直しました。
時系列は同じです。
俊は独身αです。
「そろそろ帰るか」
深夜をまわったのを見て行きつけのバーを出た。
飲み屋街を抜けると人並みはほとんど無く、酔い覚ましにと遠回りをして行くことにした。
もうすぐ弟の透が発情期だろうか。
可愛い可愛い甥っ子を今回も預からせてもらおうかなあ、なんて今からでも顔が緩む。
実家の会社を半ば無理やり引き継ぎ建て直した今、そろそろ身を落ち着かせてもいいのではないかと思ったがなかなか良い出会いもなく、いつの間にやら30半ば。
自分で言うのも何だが、αの経営者となれば良い縁談でもある。
しかし自分ではなく会社や金目当てで来られるとどうしても萎えてしまって仕方がない。
一生独り身か、なんて苦笑しながら大きな橋にさしかかろうとした時、橋の真ん中で思い詰めた様子の人影が下を覗き込んでいた。
悪い予感がして近寄り「君?」と声をかけるとビクリと肩を揺らして人影が振り向いた。
「ぁ…」
よく見ると18、19程の少年、青年だった。
やせ細り、ボロボロの着古された服。痣のある顔は気力がない。
まさかとは思うが、いや、そのまさかか。
今ここで放っておいて自殺なんかされたらもう後味が悪い。
それに…。
「ここで放っておくのもおじさん、後味悪いからさ。…ど?うち来ない?」
戸惑う少年に手を差し伸べると恐る恐る掴んで来たので引っ張るようにタクシーへ乗せてマンションへと帰る。
とりあえず風呂に入れて髪を乾かすと、盛大にお腹を鳴らしたのでおにぎりをあげた。
首にぐるぐる巻きに巻かれていたボロボロの包帯の下は擦り切れそうな薄い首輪が。
まさかオメガとは。アザや火傷跡だらけの体といい、相当な訳ありだ。
昔透にと買ってサイズが合わずにそのままだったものを引っ張り出してつけてやるとジャストフィット。
それにしてもなんてガリガリ。一変に口に押し込むような食べ方を見てもなんとなく納得がいく。
終始心ここに在らず、という感じだったが、ベッドに入れて「何があったら話してくれる?」と頭を撫でると小さく少年は頷いた。
「俺…オメガなんだけど…母さん、オメガとか男同士とか大嫌いで…いっつも殴れたりいろいろ痛いことされたりして…抑制剤買わなきゃいけなかったし生活費入れないと怒るから…母さん、働いてないのに…ッ」
そこまで言うと堪えていたのかボロボロ涙を零し始める。
「そうか、偉かったね」と頭を撫で続けるとわんわん泣きながら続きを聞かせてくれた。
彼の母は相当なオメガ嫌いで、自分な息子がオメガということも気に入らなかったらしい。
ろくに自分は働きもしないのに生活費を入れないと虐待。学校にもきちんと通えなかったのもあり、体を売って生活費と抑制剤代を稼いでいたらしい。
それが今日、母親にバレたという。
男同士や第2性を毛嫌いする母からこれまでにない以上の暴言を吐かれ我慢の限界だったという。
家を出ようにもそれ以外の生き方を知らないから出れない。この生活が当たり前で1人で暮らすことも出来ない。
死ぬしかない。もう疲れた。
そこで俺に声をかけられた、とのこと。
しばらく子供のように泣いて泣き疲れて寝てしまった彼の頭を撫でる。
こうして助けてしまうのも、罪滅ぼしかもしれない。
自分は透が両親の駒にされたり、蔑ろにされるのを止められなかった。
結果として、今透は幸せだし可愛い息子もいる。
けれど両親にそのような扱いを受けたのはいい事じゃない。
「…君を守れるかな、俺は」
おじさんだけど…ちょっと犯罪臭いかな、なんて悩ましく思いながらも眠りに落ちた。
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