こっち見てよ旦那様

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「…これは…」

潤也さんがお風呂に入っている間、スーツのジャケットをえもんかけにかけていると嗅ぎなれていない甘い香りがふわりと香る。
潤也さん、香水なんかつけていただろうか。

すん、ともう一度嗅いでみるとやはり香水の香り。自分もこの匂いの香水は持っていないし、誰かの移り香だとしてもこんなに染み付くだろうか。

何か事情があるのかと、彼の脱いだワイシャツを手に足り匂いを嗅いでみる。
…やはり香水。なんでだろう…とワイシャツの胸元を見ると赤い染みが目に入る。

血?と思ったがこの付き方と色はもしやリップでは無いか。
この位置だと長身な彼だ、女性か自分と同じ身長位の男性が抱きつけば丁度の位置。

…潤也さんに限って浮気はない。きっと何か事故があったのだろう。
そうに違いない。


そう思って無臭の消臭剤をジャケットに振りかけた。







「疲れた…」

「お疲れ様です」

倒れ込むようにベッドに入った彼の頭を撫でる時も、もやもやと先程の事が忘れられない。

「眠そうですね」

「…ん…うん…」

「おやすみなさい」

既にウトウトしている彼を見て電気を消し、寄り添って目を瞑った時も考えてしまう。

もちろん、彼のことは信頼している。けれど自分も仕事で家にいなかったり、バタバタしたり。
2人の時間が少なくなっているのは分かる。

よくよく考えてみれば、最近彼の帰りも遅いような。
今は繁忙期では無いはず…。いや、そんなことを考えるな透。

大丈夫、ちゃんと自分は彼に愛されている。そう自分に言い聞かせながら彼と自分の薬指にはまっている指輪を撫で、項の噛み跡に指を這わす。

大丈夫。

言い聞かせつつももやもやは少し残った。







「行ってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる。…今日も遅くなる」

「いえ、ご飯はいりますか?」

「多分会食だ。…すまん、お前の料理食べたかった」

「また作りますから。早く行かないと廣瀬さんに怒られますよ」

朝、いつも通りの彼を送り出し自分も湧の用意をする。
彼が朝早く出て夜遅くに帰るので最近は忙しい。幼稚園のバスも出ているが、それだと仕事に不都合が出るので送っていっている。

「じゃあね、湧。行ってらっしゃい」

「いってきまーす!」

元気な湧を無事幼稚園に送り届け、そのまま撮影場所に車を走らせる。
ブランドの撮影なのでデザイナーの自分が遅れるのも忍びない。

撮影やら確認やらを終え、事務所に戻って他の仕事を確認する。…持ち帰りだなぁ、なんて家に帰り、夕食の下ごしらえを済ませて仕事部屋へ籠る。

…前までこの仕事部屋にこもりっきりの仕事だけだったのに…今じゃそれが懐かしい。
少し戻りたかったりする。

…疲れた…。
彼も遅いし…さっきした下ごしらえは明日に回して今日は湧と2人で外食にしようかな…と考える。

そうしよう。

時計を確認するとお迎えの時間だったのでもう一度車へ乗り込んだ。
疲れているが、湧が楽しそうに今日あったことを話したり作った工作を見せてくれるのは癒される。

…これで少し頑張れたり。

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