150 / 219
咲夜の恋路
.
しおりを挟む何時間眠ったんだろう。
目を醒まして窓に目をやると外が暗く、夕方以降であることは間違いないなと思った。
ふと俺のベッドに誰か肘をついて眠っている人影が見えた。
あれ?姉貴帰ったんじゃ…
いや、違う…
「えっ…」
あ、哀沢くん!?
待って待って待って待って…
なんで…なんでここにいるの!?
いつから?
いま何時?
時計を見ると18時だった。
起こした方がいいのかなぁ…
久しぶりに見る哀沢くんはやっぱりかっこよくて、ずっと見ていたいと思った。
そういや部屋乾燥してるんだよね。
飲み物買ってきてあげようかな。
ちょうど夕食の時間だし、部屋で食べないで食堂で食べてからついでに夜の検温をして部屋に戻ろう。
せっかく寝てるのに起こしたら悪いもんね。
てか哀沢くん寝起き悪いし。
俺は哀沢くんを起こさないように、哀沢くんが寝てる反対側からベッドを降りて部屋を出た。
面会名簿を確認すると、哀沢くんは13時頃ここに来ていたらしい。
え?5時間も俺を起こさずいたの?
申し訳ないなぁ。
姉貴が連絡したのかな?
俺は食堂に夕食を運んでもらって、夜の検温報告して、ジュースを買って部屋に戻った。
部屋のドアを開けると、哀沢くんが起きたばかりだった。
「あ!哀沢くん起こしちゃった?」
振り返った哀沢くんは俺を見て驚いていた。
「起きたら哀沢くんが寝ててびっくりしたよ。面会名簿見てきたら13時ぐらいに来てたんだね。俺その前までは起きてたんだけど寝ちゃったんだ」
いつも通りの俺みたいに、明るく話した。
ちょっと気まずくて、俺は哀沢くんに近づかずドアの傍で会話を続けた。
すると哀沢くんはこっちに駆け寄り、近づいてきた。
「起こしてくれてよかったのに。哀沢くんの好きなコーラ売り切れてたからココアでもい…」
俺の言葉を遮り、大きな腕で抱きしめる。
力が抜けて床にジュースが落ち、部屋にその音が響いた。
「哀沢くん…?」
沈黙が続いた。
哀沢くんが俺を抱き締める力は変わらない。
どうしたんだろう。
落ち着くなぁ哀沢くんの胸の中。
でもさ、
「俺ね、別に死んでもよかったんだ…」
俺は諦めなきゃいけないんだよね。
「死ぬ前に哀沢くんに抱いてもらえたから。それだけで満足だったから後悔してない」
俺の発言に少し驚いたのか、哀沢くんの力が緩んだ。
昔から死んでもいいって思ってた。
人生退屈だって。
でも…
「でも…今日哀沢くん見ちゃったら、やっぱりダメだぁ。まだ好きだから苦しい」
今は生きて哀沢くんの傍にいたい。
あーあ、
せっかく忘れられそうだと思ったのに。
全然ダメじゃん、涙止まんない。
めんどくさいやつだって嫌われちゃうよ。
「だから放して。頑張って諦めるから。哀沢くんのこと。これ以上好きにさせないで」
俺は哀沢くんの腕から無理やり抜けようと抵抗したけど、哀沢くんは放してくれなかった。
「放したくねぇんだよ」
俺が予想してなかった言葉が返ってきた。
「山田…そのまま黙って俺の話を聞いてくれ」
そして哀沢くんは自分の過去を全て話し始めた。
「雅彦って…あの有名なモデルの三科雅彦?射殺された?」
「そうだ」
俺と出会った頃にはもう三科雅彦のことが好きだったんだ。
「俺はあいつが死んでからもう誰も好きにならないって誓ったんだ」
そりゃ、そんな過去があったらもう恋愛なんてしたくないって思うかも。
本当に好きだったんだね…彼のこと。
俺はそんな一途な哀沢くんも好き。
「山田がいなくなるかもしれないと思ったら不安で仕方なかった。あいつを失った時の感情と似ている気がした」
そんなこと言って貰えるなんて、生きててよかった。
死ななくてよかった。
「もしまだ山田が俺のことを好きなら、俺のこの気持ちが恋なのかどうか証明するために一緒にいて欲しい」
全然大好きだよ。
これからも好きでいていいなんて、嬉しすぎる。
「俺もちゃんと向き合う。時間かけて、もしこれが恋なんだと気付いたら、その時は山田に告白する。…さすがに身勝手か?」
哀沢くんに好きになってもらえれば、告白してもらって付き合えるってこと!?
そんなの身勝手じゃなくて、むしろ光栄なんだけど…
「じゃあ、お付き合いの仮契約ってことでいい?俺は好きでいていいんだし、哀沢くんが俺を好きになってくれたら、正式に付き合おうね!」
嬉しくて哀沢くんの肩にぎゅうっと腕を回して抱きしめた。
嬉しい、嬉しすぎる。
「もう、めっちゃお金かけて惚れ薬とか開発して好きになってもらう」
「結局金かよ…」
まだ好きでいてもいいなんて。
幸せ。
「じゃあまた、学校でな」
そう言って哀沢くんは病室を出ていった。
俺はしばらくニヤニヤが止まらず、早く退院したくて荷物をまとめ始めた。
5
お気に入りに追加
1,511
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる