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しおりを挟む「どーぞ!」
「お、ありがとう。…いただきます」
もぐもぐ、とおもちゃの料理を食べる素振りをする潤也さんを満足そうにシェフの湧は見ている。
誕生日に欲しがっていたままごとのキッチンセットをお義母さん達から貰い、食材やら食器を兄さんに揃えて貰ったままごとセットは湧のお気に入りだ。
自分たちからは何を送ろうかと、欲しいものを聞くと意外なことにブロックを欲しがったのでそれにしたわけだが、今はもっぱらレストランごっこに夢中だ。
先日のお誕生日会で、自分は海來君に人形の洋服をプレゼントした。
海來君はめるちゃんという赤ちゃん型の人形にハマっているらしい。
毎日丁寧に着せ替えては持ち歩いているとか。
随分凝っている。
お互いに遊んだ時にはごっこ遊びが始まる。幼稚園でもそうらしいが、一時、とあるクラスメイトの男の子が「男のくせにままごととかおかしい」と言ったそうだ。
湧が気弱で言い返せなかったからか、その分海來君が言い返したらしい。
その男の子の親も親切に謝りに来てくれて、最近では言われず、楽しくやっているみたいで安心ではある。
「まま、ごちゅうもんは?」
「そうだなー…ハンバーグセットくださいな」
「かしこまりました」
ぺこりとご丁寧に頭まで下げてくれる。いっちょ前だ。
しばらくしてきちんと盛り付けられたハンバーグプレートが運ばれてきた。
食べる真似をして美味しいと言うと満足気に去っていく。
普段こうして3人でゆっくり遊べないからこういうのもたまにはいい。
「湧、ママはもう少ししたらお買い物行くけど行く?パパとお留守番?」
「いく!!」
「え…じゃあ俺も…パパも行く」
「わかりました。 湧、ご馳走様でした。おかたづけもしっかりお願いね」
「はーい」
出かける支度をしようと片付けを2人に頼んで立ち上がる。
出掛け中の咲夜君は鍵を持っているはずだし、連絡を入れておけばいいだろう。
「シェフ、おかたづけもお願いします」
「はぁい」
潤也さんが子供用のポップなマットの上に正座している姿がなんだか面白い。
湧シェフと一緒に片付けをしつつ、戸締りをしてくれる。
潤也さんと自分の鞄を取りに寝室に戻り、ついでにドレッサーの前で身支度を整えておく。
首元が寂しい。
ここしばらく、というか湧が産まれてからは抱っこした時に引っ張られないようネックレスは控えていた。もうあまり抱っこはしないし、つけてみようかなと引き出しの奥からネックレスの箱を取り出す。
懐かしい、これは確か潤也さんが結婚してすぐにくれたやつだったか。
まだ話せなかった時に貰ったものか…懐かしい。そんな時もあった。
そんなことを思いながらネックレスを身につけ、鞄をふたつ持って玄関へと降りていく。
「…それ…懐かしいな」
「そう思ってつけてみました。…もう4年ですよ」
「もうそんなに経つか…もうずっと、前からお前と過ごしてるみたいな感覚だけどな」
そっとネックレスの揺れる首元に指先を添える彼を笑いながら「ほら、行きますよ」と急かす。
4年も経ったと時の速さに驚くこともあるが、それ以上に彼とはもっと長い年月を一緒にいるような気がして仕方がないというか、彼のいない人生は考えられない。
靴を履いてソワソワと待つ湧の元へ行くと首元のネックレスを指摘される。
「まま!きらきら!」
「かわいいでしょ?」
「かわいい!」
「パパがくれたんだよ」
「おたんじょーび?」
こてん、と首を傾げる湧を潤也さんが抱き上げて微笑む。
「誕生日じゃないな…パパはママが大好きで、ママに着けて欲しいと思ってあげたんだ」
「ママによく似合ってるだろ?」とこちらをいたずらっぽく笑みを浮かべて見る彼に湧が「うん!」と反応する。
「まま、けっこんできるね!!」
いや、もうパパとしてる…と困惑している彼の肩を叩き「もう、行きますからね」と声をかけた。
そんなに困惑しなくてもいいのに。
本当に、可愛い人だ。
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