こっち見てよ旦那様

文字の大きさ
上 下
131 / 219
38

... 潤也目線

しおりを挟む


「美味いか?」

「美味しいです…!」

ティースタンドに並べられた綺麗なケーキを美味しそうに頬張る透を見つめ続けている。
一応、自分の分もあるが全て彼にあげたくなってしまうほど彼が美味しそうに食べるもんだから。

…かわいい。彼はきっと何十年経っても可愛いままなのだろう。

「これ、とても美味しいです。オススメですよ」

「そうか。…ならやる、食べろ」

「でも…」

潤也さんのですよ?と渋る彼に勧めると彼がケーキを1口大に切り、こちらへ差し出してくる。

「はい、どうぞ」

…彼のあーんには弱い。

ありがたく1口いただくと、すかさずもう一口。

「…美味いな…!」

思っていた以上に美味しかった。
ここを選んでよかった。

廣瀬と相談しつつ、特別に予約を取った。アフタヌーンティーを2人きりで取りたいとホテル側に我儘を言ってしまったのだが、まさかこんな花に囲まれて2人でお茶ができるとは。

予約の際に、「記念日ですか?」と尋ねられたのだが、「デート」と答えると少し驚かれた。

たまにしかないデートだ。少しくらい贅沢しても良いだろう。今日は透をめいっぱい楽しませるのだから。


ゆっくりアフタヌーンティーを堪能し、ホテルを出ると彼の希望もあって百貨店へ行くことにした。

目当てはスーツらしい。
自分から見ると少し小柄な彼だが、第1性は男性、彼はスーツも似合う。「シンプルできちんとしたものが長らくなかったので」とのことだ。

しっかりとしたスーツを着る彼を見ていると、やはり第1性は男性なのだと実感する。
一般男性から見ると第2性のせいで小柄に見える彼だが、腰の細さや綺麗な首筋がスーツを際立たせている。

普段とは違う、格好いい彼を見ていると少女のようにときめいてしまう。

「旦那様も、何かご覧になりますか?…丁度新作の物が入っておりまして」

透に見蕩れていると小綺麗な女性店員が冊子を待って話しかけてくる。
それほど着飾ることに興味もない為、新作と言われてもよく分からない。

「…これ、いいな」

「ご覧になりますか?」

「お願いします」

持ってきてもらったのは名刺入れとペンケース。革素材と上質な布地を使ったシンプルだが、凝った造りのものだ。

正直、名刺入れは自分も新しいものをそろそろ揃えたいと思っていた。

ペンケースは、職業柄、彼は文房具をいろいろ持ち歩くことが多い。
何かしら使ってくれたら嬉しいな、なんて思う。

「名刺入れを2つ、ペンケースを1つ頂こう」

「ありがとうございます。御用意致しますね」

両方とも、この場で名前が入れられるらしいので待っていると透が採寸を経て隣に戻ってくる。

「気に入ったのはあったか?」

「はい。少し予算オーバーですけど、これから成長する気もありませんし、一生物と思えば」

「もう会計は済ませました」と満足そうに笑う彼。

「…自分で払ったのか?」

「?…はい」

だめでした?と不思議そうに首を傾げる彼の頭を撫でる。

「買ってやりたかった…と。もう少し、甘えてもいいんだぞ?」

「十分甘えさせてもらってますよ。僕が自分の稼ぎで、長く形に残りものが欲しかったんです」

ありがとうございます、と笑顔を向けてくれる彼にキスしたくなる衝動に駆られるが、店内なので我慢する。
すると、先程の店員が買ったものを袋に入れて持ってきてくれた。カードで支払いを済ませて2人で店を出ると彼が首を傾げる。

「何か買ったんですか?」

「あぁ。後で見せるよ」

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

処理中です...