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... 潤也目線
しおりを挟む「美味いか?」
「美味しいです…!」
ティースタンドに並べられた綺麗なケーキを美味しそうに頬張る透を見つめ続けている。
一応、自分の分もあるが全て彼にあげたくなってしまうほど彼が美味しそうに食べるもんだから。
…かわいい。彼はきっと何十年経っても可愛いままなのだろう。
「これ、とても美味しいです。オススメですよ」
「そうか。…ならやる、食べろ」
「でも…」
潤也さんのですよ?と渋る彼に勧めると彼がケーキを1口大に切り、こちらへ差し出してくる。
「はい、どうぞ」
…彼のあーんには弱い。
ありがたく1口いただくと、すかさずもう一口。
「…美味いな…!」
思っていた以上に美味しかった。
ここを選んでよかった。
廣瀬と相談しつつ、特別に予約を取った。アフタヌーンティーを2人きりで取りたいとホテル側に我儘を言ってしまったのだが、まさかこんな花に囲まれて2人でお茶ができるとは。
予約の際に、「記念日ですか?」と尋ねられたのだが、「デート」と答えると少し驚かれた。
たまにしかないデートだ。少しくらい贅沢しても良いだろう。今日は透をめいっぱい楽しませるのだから。
ゆっくりアフタヌーンティーを堪能し、ホテルを出ると彼の希望もあって百貨店へ行くことにした。
目当てはスーツらしい。
自分から見ると少し小柄な彼だが、第1性は男性、彼はスーツも似合う。「シンプルできちんとしたものが長らくなかったので」とのことだ。
しっかりとしたスーツを着る彼を見ていると、やはり第1性は男性なのだと実感する。
一般男性から見ると第2性のせいで小柄に見える彼だが、腰の細さや綺麗な首筋がスーツを際立たせている。
普段とは違う、格好いい彼を見ていると少女のようにときめいてしまう。
「旦那様も、何かご覧になりますか?…丁度新作の物が入っておりまして」
透に見蕩れていると小綺麗な女性店員が冊子を待って話しかけてくる。
それほど着飾ることに興味もない為、新作と言われてもよく分からない。
「…これ、いいな」
「ご覧になりますか?」
「お願いします」
持ってきてもらったのは名刺入れとペンケース。革素材と上質な布地を使ったシンプルだが、凝った造りのものだ。
正直、名刺入れは自分も新しいものをそろそろ揃えたいと思っていた。
ペンケースは、職業柄、彼は文房具をいろいろ持ち歩くことが多い。
何かしら使ってくれたら嬉しいな、なんて思う。
「名刺入れを2つ、ペンケースを1つ頂こう」
「ありがとうございます。御用意致しますね」
両方とも、この場で名前が入れられるらしいので待っていると透が採寸を経て隣に戻ってくる。
「気に入ったのはあったか?」
「はい。少し予算オーバーですけど、これから成長する気もありませんし、一生物と思えば」
「もう会計は済ませました」と満足そうに笑う彼。
「…自分で払ったのか?」
「?…はい」
だめでした?と不思議そうに首を傾げる彼の頭を撫でる。
「買ってやりたかった…と。もう少し、甘えてもいいんだぞ?」
「十分甘えさせてもらってますよ。僕が自分の稼ぎで、長く形に残りものが欲しかったんです」
ありがとうございます、と笑顔を向けてくれる彼にキスしたくなる衝動に駆られるが、店内なので我慢する。
すると、先程の店員が買ったものを袋に入れて持ってきてくれた。カードで支払いを済ませて2人で店を出ると彼が首を傾げる。
「何か買ったんですか?」
「あぁ。後で見せるよ」
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