こっち見てよ旦那様

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... 潤也目線

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「…終わった…」

「まだですよ。…早めに詰めておくなら、ですが」

「そうだな。…お前も安心して休み取りたいだろう」

「そりゃそうですけど…それでミスが増えたら本末転倒です」

う、と廣瀬の言葉が胸にグサグサ刺さる。

「やるか…」

切り替えて椅子に座り直すと書類を手を伸ばしたその時。

「失礼します」

直属の部下では無い男が部屋にノックと共に入ってくる。

「どうした?」

「その…奥様とご子息という方がいらしていて…大変怖がっている様子でしたので」

透が?
確か今日は外で仕事だったはず、何かあったのではないか。

「っ、今はどこにいる!?」

「応接室にお通ししています」

何があったのかは分からないが透が連絡もなく会社へ来るなんて初めてだ、相当なことがあったに違いない。

社員より先に執務室を出ると小走りで応接室へ向かう。
エレベーターも待てず、階段を駆け下り、応接室のドアを開ける。

「透?!」

部屋を開けると青ざめてソファに腰掛けている透とその隣で遊んでいる湧がいた。

「よく来たな。もう大丈夫だからな」

彼を抱きしめて背中を撫でてやると強ばった彼の体が徐々に柔らかくなる。
ぐす、と鼻を小さく啜る音と「潤也さん…」という頼りない声が嗚咽とともに聞こえた。

「大丈夫、よく頑張ったな」

彼が落ち着くまで抱いていることにした。しがみつくように回された手には携帯が握りしめられている。

「…ありがとうございます…ごめんなさい、急に来て」

しばらくして、赤くなった目元を袖で擦りながら顔を上げた彼の頬を撫でる。

「…何があったか話せるか?」

「…最近…誰かに付けられてる気がしてて…気の所為だと思ったんですけど…」

途切れ途切れの彼の話を聞いて驚愕した。
同時に、そのストーカーとやらに怒りが湧いた。

怖かっただろうに。
守らなければ、と思いつつ彼をもう一度抱きしめる。

「よくここまで来たな。…何時でも連絡して、何時でも来てもいいんだ。大丈夫、俺が守る」

「怖くて…湧に何かあったら…」

「お前と湧が無事で良かった。…今日は一緒に帰ろうな」

頷いた彼が落ち着くのを待ち、自分の執務室へ連れていき、廣瀬と廊下に出て訳を話す。

「そんなことが…。周辺の監視カメラを調べてみます。もう少し落ち着いてからで良いので男の特徴や立ち寄った店等教えて頂けると」

「分かった」

しばらく外には出たくないだろう、直ぐには帰らずにもう少しここにいた方がいい。

廣瀬がお茶と菓子を出すのを横目で見ながら透の隣に腰掛けノートパソコンを弄る。
湧がお菓子を食べる世話をしつつもどこか疲れているような彼。

しばらくすると湧は寝てしまったらしい。すやすやと眠る湧を見ながらぼんやりする彼もウトウトしている。

「…ほら、寝ていいぞ」

ポンポン、と膝を叩くと遠慮がちではあったが体を預けてきた。
可愛いが、それ以上に心配だ。
加えて透にはもうすぐ発情が来る。


調べに行っている廣瀬の報告をとりあえず待つしかない、そう思いながら彼の頭を撫でた。

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