こっち見てよ旦那様

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「お疲れ様でした、失礼します」

今日はブランドのホームページに載せる新商品の撮影。
モデルさんやスタッフさん達に一礼して少し早めに上がらせてもらう。
今から湧を迎えに行って、買い物して帰ろうか。


ビルを出て歩いていると最近の違和感に気がつく。
気の所為だろうか、最近誰かに付けられているような気がする。

最初の方は楓斗君といたからそのせいだと思っていたが、1人で街にいたり買い物や公園に出ていると誰かに見られているような、そんな感じがする。

自意識過剰だろうか。


託児所のあるビルの前で立ち止まり、恐る恐るではあるが振り返ってみる。
街中なので人はいるが、仕事をしている時間帯でもあるのでみんな忙しなく歩いている。
その中で一人、不自然に立ち止まって自販機に向かった人影がひとつ。

偶然?

少し怖くなりながらも湧を迎えに行き、ベビーカーと共にエレベーターから降りると先程の人が自販機の前で缶コーヒーを飲んでいた。

やはり気の所為だったのかもしれない。

最寄りのスーパーまで約十数分、散歩がてら歩いて行こうともう一度歩き出す。

「今日の夕飯は何にしようね」

「おにりり?」

「おにぎりがいいの?」

おにぎりは湧が言える食べ物のひとつだ。絵本か何かで出てきたのか、手遊びでおにぎりが出てきたのだろうか。
やたらお気に入りだ。

湧に話しかけながらもやはり後ろが気になってしまう。ちらりと見るとまたさっきの人がいる。
偶然?

自分1人のときならまだ何とかできるけれど今は湧がいる。
いざと言う時に走ったりはできないし、狙いが湧だったらどうしよう。

何とかしないと。

今なら周りに人もいるしまだ大丈夫、とりあえず一旦喫茶店に入ろうと少し先に見えた喫茶店に入る。
後ろを取られないように1番奥のボックス席に入る。

湧とメニューを見つつ、入り口を気にしているとあの男が入ってきた。

自分1人なら偶然だろう、と片付けることもできたかもしれない。けれど湧に被害が少しでも及ぶなら何とかしないといけない。

湧にキッズメニューのオレンジジュースと自分はコーヒーを注文する。
潤也さんに連絡した方がいいのか、でも今は忙しいはず。
廣瀬さんにならすぐ繋がるだろうか。

兄さんも今は仕事中だろうし、楓斗君も今は撮影のはず。




しばらく様子を見た後、ゆっくりと店を出る。
結局まだ男は喫茶店にいる。怖くてまともに見れなかった。
もし今から家に向かったら家もバレてしまうのだろうか。
視線が気になるのは事務所とかよく撮影するビル街、加えて自宅周辺は警備が厳しく、監視カメラもある。家はバレていない、このままバレて欲しくない。

「ゆ、湧ー、公園行こっか」

「ん!!」

ご機嫌な湧を不安にさせないようにいつも通りに歩く。
本当は公園に行く道じゃない、どこに向かっているのかもよく分からない。
携帯を握りしめたままベビーカーを押してただ歩く。潤也さんに連絡したい、けれど怖くて手が動かない。

自然と早足になっていたからか、いつの間にか店から出ていたであろう男があちらも早足に着いてきて少し後ろにいる。

どうしよう。
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