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しおりを挟む「じゃあ行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい。頑張れ、透なら大丈夫だ」
「ありがとうございます」
朝、潤也さんよりひと足早く湧とともに家を出てタクシーに乗り込む。
いつもなら寝ていたりゴロゴロしている時間だからかタクシーの中で湧は寝てしまった。
「透、おはよ~。…あ、そっちも寝ちゃってたか」
託児所のあるビルで楓斗君と待ち合わせると海來くんも寝てしまったようだ。
2人を託児所へ預けて2人でスタジオへ向かう。
「透、緊張してるでしょ」
「そりゃそうだよ。…慣れてないし、大丈夫かな」
「大丈夫大丈夫、髪も可愛いし、透は綺麗だよ!自信もったもん勝ちなんだからさ」
「俺もいるから、大丈夫」と励まされながらもあっという間に時間は過ぎてスタジオへと入ってしまった。
挨拶をすると皆さんにこやかに挨拶をしてくれる。
緊張が半端なかったが、控え室で待っている間、楓斗君のモデル仲間や後輩、スタッフさんと話していると自然とほぐれてきた。…ような気がする。
「楓斗さん、三ツ橋さん、ヘアメイクお願いしまーす」
「はーい、透、行くよ~」
人にメイクをしてもらうのは初めてだ。
昔、まだ自分のブランドを立てたばかりの頃、服の種類もそれほどなかったので自分で服を着て写真を撮っていた。
モデル、と言うまでもなかったし顔も出ていなかったので緊張はしなかった。
メイクさんは顔や肌のことを話しながらそれに合わせてメイクをしてくれた。
そんなにブラシがあっても使いこなせるのか…なんて思いながら過ごしているとヘアメイクが完了する。
髪はアイロンで緩く巻かれ、ふわふわとしている。メイクはすごい、めちゃくちゃ顔が変わっている訳では無いのに目がぱっちりして透明感と血色感がいい具合に引き出されている。
「めっちゃかわいいじゃん!写真撮ろ!」
メイクを終えた楓斗君は相変わらず綺麗で、2人で写真を撮った。
さすが。
「インスタあげていい?」
「いいよー」
SNSに顔を出すのは特に抵抗はない。最も、自分から出すことはあまりないが…。
ただ雑誌の1部として、お金を出して形になったものを見てもらうとなるのは話が別だ。
元々それほど撮られるのも得意ではないし…上手く笑えるだろうか。
ネガティブになってきたが、スタイリストさんと相談しながら2人の服を選ぶのは楽しかった。
「お二人共、撮影入りまーす」
選んだのはユニセックスでありながら上品さの出る服。
カメラマンさんの指示に従いながらソファに座ったり、立ったり。
移動して撮ったり…。
…疲れた…。
撮影が終わる頃にはヘトヘトだったが、それ以上に上手くいったか不安だ。
対談中用の写真では楓斗くんがいつも通りの話で和ませてくれたりで何とか上手くできた気がする。
撮影は終了し、午後からは雑誌に載せるインタビューをして解散だった。
本来ならもう少し残るのだが、2人とも子供がいるので気を使ってくれた。
湧を迎えに行った足で買い物をし、家に帰ってご飯を作って…。
湧をお風呂に入れて寝かしつける。
疲れた。
サッとシャワーを浴びてソファで休憩しているとそのままウトウトしてきた。
少しだけ、少しだけ…と目を瞑るとそのまま眠ってしまったらしい。
目が覚めるとベットにいて、潤也さんが隣でパソコンを操作していた。
「…おかえりなさい」
「起きたのか。…ただいま、お疲れ様だな」
優しく額にキスをした彼が小声で微笑む。
湧はもう子ども部屋で寝ているのに小声で話すくせが抜けない彼が可愛らしい。
今日あったことをたくさん話したい。話したい…が眠い。
「…すみません運んでもらっちゃって」
「気にするな。ほら、もう寝ろ」
優しい彼の声と頭に置かれた大きな手のひらに安心感を覚え、そのまま目を閉じて考える間もなく眠りについてしまった
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