こっち見てよ旦那様

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「三ツ橋様、パーティーが始まりますのでご案内致します」

会場であるホテルの一室に通され、待つこと1時間ちょっと。
係の人が呼びに来てくれて、そのまま会場へと歩いていく。

「透…!」

「潤也さん、休憩ですか?」

「あぁ。…お前を迎えに来た」

「ありがとうございます」

「じゃあ行こうか」

ロビーまで迎えに来てくれた彼と会場へ入ると楽しそうな話声や食器の音で賑わっていた。

「立食式だ、挨拶されるだろうから暫くは一緒にいよう」

彼に並んで真っ白なお皿に料理を少しづつ丁寧に盛って戻ってくると黒い燕尾服の朗らかな初老男性が話しかけてくる。

「三ツ橋さん、先程はどうもお世話になりました。どうぞ楽しんでってくだされ」

「いえいえ、お互い様ですから。…こちら、妻の透です。…透、主催者の」

彼に紹介され、微笑んで頭を下げる。主催者の方か…、確かに柔らかそうな人だ。だからパーティーも堅苦しくなく明るいのだろうかなんて考えてしまう。

「おお、一度お会いしましたね。…ほら、1年くらい前でしょうか」

「…あ、あの時の。失礼しました、ご無沙汰しております、この度はおめでとうございます」

まだ新婚だった時だ。確かあの時潤也さんが威嚇して…その後に両思いって分かったんだっけ。

「いいんですよ、また会えて嬉しいです。…ありがとうございます、透さんは確かデザインの仕事を?」

「はい、仕事といっても大したことは無いのですが」

「またご謙遜を。…娘が貴方のブランドを愛用していてですね、最近では妻も好んで身につけていますよ」

「それは…ありがとうございます…!」

まさか褒めて頂けるなんて。
嬉しくてほくほくしていると「良かったな」と潤也さんにも囁かれる。

「…後日、モデルの廣瀬さんとのコラボブランドの展示販売がありますので良ければ奥様と娘様に」

余計なお世話だっただろうか、と心配になりつつカバンに入れていたチケットを一応3枚手渡すと快く受け取ってくれた。

「では、他にも挨拶に回ってきます。またお話に来ますからその時に詳しく聞かせて貰います」

パタパタとグラス片手に手を振って呼ばれた方へ行ってしまった。
その後もひきりなしに潤也さんへ声はかかった。主賓に近い彼だ、仕方がないだろう。

知らない人ばかりだったが、自分のことを知ってくれている人もたくさんいて嬉しかった。
発表への不安が少し和らぐ気がする。

その後、パーティーは少し遅くまで続き、廣瀬さんは約束の時間になるとキッパリ帰ってしまった。
透君と海來くんが待ってるもんなぁ、なんて微笑ましく思っていると湧に会いたくなる。

いまはもうとっくに寝ている時間だろう。
明日の午後には会える。

そう分かっていても恋しくなってしまう。
潤也さんも同じだろうか、 そう思いながら彼を見上げていると彼が奥の方にいる家族四人で仲良く出席しているところを見ている。

「…湧に会いたくなるな」

「そうですね、僕も思ってました。」

「いつかはみんな一緒に参加して、自慢の家族を鼻高々に自慢してみたい」

「その頃には湧も潤也さんに似て格好良くなってますよ」

そうか、と照れ気味に笑う彼の垂れてきた前髪を手櫛で直し自分も笑って頷く。

絶対湧は潤也さん似だろう。
今の時点でももうそっくりなのに…。

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