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〘番外編〙おしどり廣瀬夫婦 1
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しおりを挟む透が妊娠したと知って1ヶ月。
つわりも落ち着いて来たようで安心した。
仕事の合間を縫って、マネージャーに車を走らせてもらい、撮影現場と透の家を往復したこともあった。
本当に当時の透はゲッソリしていて心配になった。お粥を作ったりなるべく栄養のある美味しそうなゼリーを作ってみたり。
今では豆腐が好きらしい。
豆乳プリンは食べれたと言っていたから豆類が好きなのか?いや、そんなことはないか。
豆といえば…
「…お腹すいたー」
「楓斗さっき沢山ご飯たべてなかった?…そうだな、クッキー買ってきたんだけど食べようか、美味しいよ」
確かにそうだ。
最近よくお腹が減る。少しだるかったりするし、発情期前か?とか思ったけれど先月終わったばかりだ。
「太ったらどうしような」
「太っても可愛いから大丈夫。俺はぽっちゃりしたら楓斗も見てみたいな…お腹ぷにぷにしたい」
「お前…凄くエリートで顔も良いのにそこは残念だよな」
「大丈夫、楓斗にだけ」
「…はいはい」
恥ずかしいことを平気で言ってのけるやつだ。
彼が持ってきたクッキーと紅茶を食べる。美味しい、いつもなら歯止めがかかるのに本当に食べたい。
「最近変なんだよな…お腹空くし、ちょっと風邪っぽいし…」
「…」
「翼?」
急に黙り込んだ翼の顔を覗き込む。
すると何やら急に立ち上がり、「ちょっとまってて!」と家を出てしまった。
何事だ…?
ぽかんとしてそのままクッキーを食べる。
出張先で買ったのか、それとも取引先に貰ったのかよく分からない。
取引先で女によくこういうのを貰ったりするらしいが、貢物をもらった上で結婚してますと言うもんだから性格が悪い。
まあ、そんなやつと結婚して幸せに暮らしてるのは俺なんだが。
つわりが良くなったのなら、このクッキーも食べられるだろうか。
明日行こうと思っていたからその時に持っていこう。何か作り置きしてるものを持っていこうか…体に障るのも良くないから負担も少ない方がいいだろう。
あの二人の子供は可愛いんだろうなぁ、なんて考えため息をつく。
…いいなぁ、なんて。
確かに翼と話し合って今回はゴムをするということになった。
本当は子供は欲しかった。が、仕事や彼にも影響が来ると思ってなかなか思いきれず、そんな覚悟なら…と流されてしまった。
今となっては言い訳だ。
けれど辛そうながらも、幸せそうな透夫婦を見ていると羨ましくもある。
「今日は終わり」
そう言い聞かせてクッキーの蓋を閉めて、お茶を飲む。
携帯でSNSをチェックしていると慌ただしく彼が帰ってくる。
「何してたの、会社に忘れもん?」
「これ…試してきて」
そう言って手渡されたのは妊娠検査薬。
はぁ?と不思議に思いながらも言われるがままにトイレでやってみて、リビングで見る。
「え…」
みるみる赤くなった陽性の赤い線
「…お前…ゴムしてたんじゃねぇの」
どうしよう。
俺は何とかなるけど…翼は困るんじゃないのか。
堕ろすのか?いやでも…と色々な考えが頭を巡る。
「えっと…」
どうする?と聞こうと思ったところを急に抱きしめられる。
「…ありがとう…、愛してる愛してる愛してる愛してる!」
いや、怖いな。
なんて陽気にツッコミを入れつつ頭は混乱していた。
「お前…嫌じゃないの」
「そんなわけないだろ…、予想外だったけど…ほんとに嬉しい。臭い事言うけど…天からの贈り物だよね、どうしよう…俺恵まれてる」
俺のお腹に…子供がいる??
抱きしめられる中、そっとお腹に手をやる。
俺のなかに新しい命がいるんだ。
「…俺も…相当恵まれてる」
そう囁いて翼に抱きついた。
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