38 / 219
13
.
しおりを挟む「透、大丈夫か?」
「おかえりなさい…。ちょっと…きつい…」
夜、以前なら夕食の用意をして彼の帰りを待っている時間なのだが…今の自分はそうはいかない。
気持ち悪い。
つわりが始まってからというもの吐き気が酷い。
吐いてしまう、ということはないが食欲がなかなかわかず、食べたらもっと気持ち悪くなるのではと思ってしまい中々気も進まない。
何も食べないのはさすがに良くないので、日中はスポーツドリンクを飲んだり、ゼリー類を食べるしかない。耐えられない時はガムを噛んでいる。
楓斗君が仕事の合間を縫ってスープやお粥、なかには手作りゼリーなんかを作って持ってきてくれる。
潤也さんも仕事を早く切り上げてくれたり、廣瀬さんもその為に仕事を調節してくれている。
偶にお義母さんがやってきて、気を紛らわせてくれたりしてくれる。
みんなが優しくて、本当に恵まれているのに自分は寝たきり…となかなかネガティブにもなる。
「ごめんなさい、ご飯作れなくて…」
「謝るな、お前は今でも立派だ。…俺は代わってやれないから、その代わりわがままでも何でも聞いてやりたいくらいなんだ」
背中を優しくさすられながら、豆乳プリンとスプーンを渡される。1個ずつしか売っていないから毎晩買ってきてくれるのだ。
この豆乳プリンは食べられる。
優しい甘さで喉越しもいいからするっと食べられる。
その隣で彼はずっとこちらを見てたり、お腹や頭を撫でたり、今日あったことを話してくれる。
「美味しかったです。ありがとうございます」
「あぁ。…他に何かいるものはあるか?して欲しいこととか」
「大丈夫です。…でも強いて言うなら、早く寝る支度して一緒に布団入りたいです」
「分かった、少し待ってろ」
そう言って分かりやすく、ゴミをまとめて寝室を出ていってしまう。
可愛い人だ。
自分も行くか…とゆっくりベッドから降りてフラフラと洗面所へ行く。
歯を磨いてまたベッドへ戻る。
気分が悪いのは当然のことだが、それ以上に空、または水分だけの胃の状態でフラフラする。
まだ膨らみのないお腹にそっと手を置く。
今は大体6週程で、数日前に初めて病院でエコー写真を見て感動した。
まだ人の形にもなっていない、小さなものなのに不思議と嬉しかったのだ。
それと同時に男性オメガの妊娠、出産のリスクを説明され、より一層緊張感が増した。
安定期に入るまでは気を抜かないようにしなくてはならない。自分だけの体では無くなったのだから。そう思って気をつけているのだが、それ以上に潤也さんが頑張っている。
とても嬉しいことだが、あたふたする彼を見ていると少し疲れが飛んでしまう。
急いで髪を乾かしてきたのか、ホカホカ状態の彼がベッドへ潜り込んだのに笑いを漏らしながら自分も横になった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
1,465
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる