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11 発情期 🔞
...
しおりを挟む時刻は昼過ぎだろうか。
気怠い体を起こしてぼんやりとした頭で当たりを当たりを見渡す。
「潤也さん…?」
部屋に彼の姿がなくて少し寂しくなる。発情期が早く始まって、終わるのも2日ほど早まったわけなので彼はしばらく家にいられる。
それが嬉しくて一人げに微笑んでいると寝室のドアが開く。
「透、起きたか?」
「潤也さん…はい、おはようございます」
「おはよう。…体は大丈夫か?」
ベッドに腰掛けた彼に抱き寄せられ、項を撫でられる。項には彼の噛み跡があって、もう首輪はない。この発情期で彼と僕は番になった。
「はい、少しだけだるいけど…とっても幸せです」
「そうか…俺も幸せだ」
そう微笑んだ彼にキスをされ、嬉しくなる。
発情期の後だからか、甘えたい衝動にかられて彼の懐に潜り込む。
「甘えただな…とても可愛い。…さて、何か飲むか?…それとも腹減ってないか?」
「お茶飲みたいんですけど…今はこうしたいです」
自分で言って少し恥ずかしいが、頷いた彼に抱き上げられて抱きしめられるとそんなことは忘れてしまう。
「なら…俺がこうしたまま運ぶ」
ほんのり赤くなった真面目な顔で抱き上げられたので思わず笑ってしまう。
「わ、笑うなよ…」
「すみません、潤也さんが可愛らしかったので」
うぅ、とみるみる顔が赤くなる彼の頬に口付ける。可愛い…。
発情期の時の記憶がハッキリある訳では無いのだけれど彼はすごく格好よくて、でも余裕が無さそうで本当に愛しいと思った。
「ほ、ほら。…何が食べたい?お前みたいに上手くはないが…作るから」
「そうですね…。じゃあうどんが食べたいです。」
「うどんだな、分かった」
「冷凍のうどんがあったと思うので…それ使ってください」
「ああ、分かった」
額にキスを落として彼が台所に立つ。
慣れなさそうに一生懸命何かを作っている彼をソファから眺めてぼんやりと考える。
今回の発情期は避妊はしなかった。
お互い同意のことだったが、実際本当に妊娠したかは分からない。
オメガとアルファの妊娠率は高いのだが、男のオメガとなるとそうはいかないらしい。
そっと自分のお腹に手を当ててみる。
もし子供が出来なくても彼に嫌われるとか、そういうのはないと思うし、変わらず彼の事が大好きだ。
それでも願わずにはいられない。
「お待たせ…。…?、何かあったか」
「いえ、少し考え事です。…出来ましたか?」
「あぁ…胡麻玉ネギうどんだ」
「美味しそうです…!」
2つののお椀には胡麻と麺つゆの香ばしい香りとうどんに絡んだ玉子。
初めて見るがとても美味しそうだ。
「いただきます」
1口頂くと、美味しさに目を丸くする。
味が卵にしっかりと染みていて、そのトロトロの卵が麺と会って美味しい。それに極めつけのごまの香りが堪らない。
「…どうだ?」
おずおずと顔を覗き込んでくる彼に微笑みかける。
「とっても美味しいですよ…どこで教わったんですか?」
「それは良かった。…大学の時、一人暮らしをしてたんだが…その時によく作ってたんだ」
懐かしむような、楽しそうにうどんを頬張る彼に笑みが漏れてしまう。
彼が大学生なんてなかなか考えられないが…少し見てみたくもなる。お義母さんに頼めばアルバムを見せてもらえるだろうか。
食事を終えて、テレビを見ながら2人でゆっくりくつろいていると急に彼が匂いを嗅ぎ始める。
「…何か匂いますか?」
「いや…なんだか良い香りがする。ヒートの残り香でもなくて…少し変わった感じの」
「…?…何でしょうね。…でも妊娠の兆候…みたいのだったらいいな」
なんて、と笑ってみる。
番ったからだろうか、自分では匂いに気が付かないから分からない。
「あぁ。…でも有り得るかもしれない。香りも、心做しか何か違うから…。でも、どちらにせよお前は大切だ」
抱きしめられると余分な考えや不安も飛んでしまう。
何にせよ、今が幸せなことには変わりないだろうな…と微笑んだ。
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