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しおりを挟む夜
夕食の用意も終わり、潤也さんの帰宅を待つ。
今日はデザートのケーキもあるし、楽しみだ。
お茶を飲んでいるとチャイムが鳴る。
彼が帰ってきたのだ。玄関へ小走りで向かい、靴を脱いでいる彼を出迎える。
「おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
スリッパに履き替えた彼がカバンを持つ手とは反対の手で抱きしめてくれる。
「体調はもう大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。…朝ごはん、美味しかったです、ありがとうございました」
抱きしめられたまま朝のお礼を言うとほっとした表情の彼が微笑む。
「そうか、よかった。…お前のように上手く出来ないから…心配だった」
「また今度一緒にしましょう」
嬉しそうに頷く彼を洗面所へ送り出し、上着とカバンを衣紋掛けにかけておく。
彼の上着、とってもいい匂いがする。
先にキッチンへ戻ると料理を温め直し、用意をする。今日は前にお義母さんに教えてもらった魚の煮付けを作ってみた。実家の味、ということで喜んでくれるだろうか。
「いただきます」
彼が戻ってくると席について、いつも通り食べ始める。
「…美味いな。…もしかして母さんに教わったのか?」
「はい、この前教えてもらいました」
「そうか…お前が作るとさらに美味くなるんだな」
「そんなことないですよ」
喜んでもらえたようだ。そんな反応をもらえると自分も頑張って作ったかいがある。
「…来月の発情期の1週間とその後3日程、休みが取れた」
「そんなにいいんですか?…お仕事とか」
「ああ、仕事よりお前が大事だ。…廣瀬にもいろいろ言われたからな」
廣瀬さんは確か…秘書のひとだ。
いつも無表情に見えるが、ちらりと番の方の話を聞くと驚くほどデレていたのでいい人なのだろう。
彼も優秀だと褒めている。
「廣瀬さんも男性のオメガが番なんですよね」
「あぁ。…あいつ毎日のように惚気けてくるんだ、あぁ、でも相手と喧嘩したかで怒られた日の弁当は面白いぞ。いわゆる喧嘩弁とかいうやつか、海苔一色だったりするんだ。この前は一面グリーンピースで『スプーンは使わないこと』っていうメモ付きで食べにくそうだったな」
潤也さんが楽しそうだ。
つられて笑ってしまう。
「それはいい考えですね…僕も喧嘩したらそんなお弁当にしましょうか」
「それは困る…お前と喧嘩はしたくない」
「冗談ですよ。…潤也さん、会食が多くてお弁当はあまりいりませんもんね。」
確かに自分もお弁当は作ってみたい。
けれど昼を外で食べることが多い彼は弁当をあまり必要としない。
たまに作るのだが、その時はとても喜んでくれる。
「…そうだ、今日はケーキ作ったんです。アイスを添えて食べましょう」
「すごいな…。楽しみだ」
甘いものの話になると嬉しそうだ。
そんな時は子供らしくて可愛い。見た目はいわゆるスパダリなのに…いや、実際そうなのだが。時々見せる子供らしさはほんとに愛らしいのだ。
夕食を終え、簡単に片付けをしつつデザートの準備をする。
ケーキを切り分け、少し温めてからアイスを添える。
サクサクとしたパイ生地にしっとりした香ばしいアーモンドクリーム。
実は一切れだけおもちゃが入っているのだが、今回は入れていない。
紅茶と一緒に食卓へ出すと嬉しそうに彼が寄ってくる。
「ガレット・デ・ロワだな、知ってるぞ」
「ほんとですか、そんなに食べたわけじゃないんですけど…美味しいですよね」
早く食べたいのだろう。
大きなしっぽが見える。犬みたいだ。
食べ始めて少し経つと不意に彼が真面目な表情でこちらを見る。
「…透、聞きたいことがある」
「?…なんでしょうか」
「…お前は…子供を欲しいと思うことはあるか」
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