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潤也目線
しおりを挟む「浮かれてますね」
パシッとファイルで廣瀬に頭を叩かれる。
そんなに顔に出ていただろうか。それにしても、加減というものを知らないのか。
「…お前だって、毎日のように惚気けてるだろ」
「でも僕はそのように、人様にお見せできないようなニヤケ顔はしません」
「そ、そんなにか」
「はい、直ちに元に戻してください」
全く、こいつとは長い付き合いだがたまに自分が本当に上司なのかと疑ってしまう。
頬を軽く叩いて言われた通り真顔に戻すと再度書類に目を通す。
特に変わりはない。
「…廣瀬、来月の20日から1週間ヒート休暇を取る」
「ヒート休暇なら取りやすいでしょう、確認してみます。」
「あぁ、頼む」
「奥様、結婚して初ヒートじゃないですか?」
「そ、そうだな」
「番になるんですか?」
「…まあ、その予定だ」
iPadで日程を確認しながら淡々と質問してくる彼には恐れ入る。
「…初めては済ませたんですか?」
コーヒーに口をつけた瞬間、そんな質問に思わず噴き出してしまいそうになる。
間一髪で防いだが、むせてしまった。ゲホゲホと咳き込んでいると呆れたように廣瀬がカレンダーが開かれた画面を突きつけてくる。
「動揺しすぎです。…休暇、ギリギリ1週間、といったところですが10日間取れるよう手配します」
「いいのか?」
「…番になったばかり、ましてや初めて2人でヒートとなればアフターケアは必須です。奥様に誠心誠意尽くすことですね」
「そ、それは分かってる。…お前は…どんな感じで番になったんだ」
「僕ですか?…そうですね…。バーで出会ったんですけどその時はまだ互いの二次性を知らずに過ごしたんです。けど暫く連絡をとって彼がオメガと知りました。どうりでいい香りがしたと思いましたよ、何せ彼の香りはどんな香水にも勝る素敵な匂いです。彼の一挙一動がほんとうに愛らしくてですね、普段は甘えたで一生懸命尽くしてくれるのにふと男前を見せつけてくれたりするんです。それに…」
「おい、それはもうなんかいもきいたことがあるぞ。…ヒートのことを教えて欲しい」
彼は彼の番の話になるといつもこれだ、
人の事を言えたことではないが正直言って恐怖を感じる。普段はこんなに冷たいのに家ではデレデレなのだろうか…。一度見てみたい。
「何回話しても話し足りないんですよ。…ヒートですか、そうですね。…まあ、いろいろあって彼がヒートの時は休みをもらえまして…。一緒に過ごしてたんです。普段する時の彼とは違ってほんとに凄かったてす。凄く大胆になってくれて自分を求めてくれた時には本当に感動で泣きそうになりました。少し落ち着いた時にきちんと話して番になりました。…で、ヒートが終わった後にプロポーズしたってわけですよ」
やはり半分程惚気だった。
とりあえず、番の話も結婚ももう済ませた。大事なのはアフターケアか、なるほど。
「なるほど。…助かる」
「あと、子供の話もしなくてはいけませんよ。男性のオメガは妊娠のリスクが大きく、着床も女性と比べて確率が低い。変に相手にプレッシャーをかけたり本人は望んでいなくても、ヒート中は本能で望んでしまうこともあります。…特に、あなたは次期社長なのですから、奥様もそれを気にするかもしれませんよ」
「確かに…」
彼との子供は欲しい。
それは会社のためでもなんでもない。彼との子供なら欲しいと思ったのだ。
だが、それで彼を失うのなら子供は望まない。跡継ぎはどうとでもなるし、もし妊娠しても彼の体が危なければ真っ先に彼を選んでしまう。
帰ったら彼と話そう。
そう思って再度惚気を始めた廣瀬を聞き流しながら仕事を再開した。
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