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しおりを挟む朝
「…おはよう」
朝食を用意しているとすでにスーツに着替えた潤也さんがリビングに現れる。
「おはようございます」
特に代わり映えのない朝だが、今までとは大きく違うことがある。
嫁いで約3週間にして潤也さんの気持ちを知ることが出来、自分の気持ちも伝えることが出来た。
自信を持って彼の目を見れる。
相変わらず饒舌では無い彼だが、以前より雰囲気は柔らかくなった気がする。
「…今日も可愛い。…手伝う」
背後からそっと頭を撫でられる。彼の素直な言葉に少し気恥ずかしさを感じながら「ありがとうございます」と笑いかけ、食事の準備をしてもらう。
揃いのカトラリーに、コーヒーカップには兎のティースプーンが添えられている。
「今日は何時に帰ってきますか?」
「会食があるから9時頃になる。…なるべく早く帰るが夕食は必要ない」
「わかりました、待ってますね」
「それは…余程早く帰らなくてはな」
「そうですね、早く帰ってきてくれたら僕は嬉しいです」
こんな会話ができるのも幸せだ。
お互いに好きと分かっただけでこんなに自信を持って話せるようになる、不思議だ。
もちろん、まだ慣れてはいないが彼をさらに愛しいと思える。
仕事に出る彼を庭の水やりついでに外まで見送る。なんだか本当に夫婦みたいだ。いや、夫婦なのだが。
「透」
声をかけられ顔を上げると潤也さんがそっと腰をかがめ、キスをくれる。
…初めてだった。
ファーストキスではない。が、潤也さんとしたのは初めてだ。
まさかここでしてくれるとは思わずぱちくりしていると体を起こした彼が小さく微笑む。
「いきなりすまない。…どうしてもしたくて。行ってきます」
「あ、ありがとうございます…行ってらっしゃい」
足早に行ってしまった彼の後ろ姿を見て溜息をつく。心臓が痛い。今までとは少し違うドキドキだ。
心を静ませつつ、花木に水をやり家に入る。朝食の片付けと軽い掃除を済ませると後は家政婦さんに任せて仕事場に入る。
「納期いつだっけ」
ふとそんなことを思い出して手帳をめくる。
まだ余裕はあるが、少し早めに提出して修正したい。それに…。
1ヶ月後、発情期が来る。
何かあって仕事が被ったら迷惑をかけてしまう。だから早めにいつも済ませているのだ。
発情期…。潤也さんと番になるのだろうか。
番にならなくても妊娠はする。求められる跡取りは番にならなくとも産めるはずだ。
アルファとオメガの間には運命というものがある。都市伝説のようなもので確証はないが…下手したら一生のものである番契約、多少なりとも運命を考えてしまう。
もし彼に運命の相手がいたら?
自分以外に番をつくるのだろうか。アルファである彼には可能な事だ。
「そんなの嫌だなぁ」
ぽつりと呟きが漏れる。
彼と番になることを前提に進めてしまう。もちろん彼と番になりたいという気持ちは強い。
潤也さんは優秀なアルファだ。いくらでも相手はいる。
アルファとオメガの子供はアルファの確率が高いと言われている。
自分達の子孫にアルファが多い事はこの家にとっていい事だろう。
男のオメガの出産はリスクが高いと言われる。何度もリスクが高いことをさせるよりも、女性のオメガやアルファにも産んでもらった方が…なんて考えてしまう。
こんなことは考えるべきではないのだろう。
手帳を閉じると作業台へと体を向けた。
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