こっち見てよ旦那様

文字の大きさ
上 下
8 / 219
3 潤也目線

.

しおりを挟む


「潤也様、そのまま会場へ行かれますか?」

昼過ぎに仕事が終わり、会社の廊下を秘書と歩いているとそんなことを聞かれる。
時間的には家に帰れないことも無い。

「透はどこにいる?」

「透様は先刻会場へご到着されたようです。奥様とご一緒に美容院へ行かれていたらしいです」

「そうか。…なら会場へそのまま行こう。車をまわせ」


「かしこまりました」

電話で指示をしながら隣を歩くのは秘書の廣瀬 翼という。副社長就任前から俺直属の部下で、非常に優秀な男だ。
普段はこうしてキビキビと冷静な男だが、惚気が大変ひどい。部下の幸せは結構なことだが、真顔でつらつらと語られるとなんというか、反応に困ってしまう。
かなり前に「それは可愛らしいな」というと「何言ってるんですか、手出したら許しません」なんて言われてしまった。
番バカ、とでも言うべきかと思ったが自分も人のことを言えたわけではないので黙っておく。
部下だがかなり怖い男だ。

「それで、透様とはお話できるようになったんですか」

「あ…あー…まあ、うん。」

「話せてないんですね。…なんでですか、まさかとは思いますが…まだ恥ずかしいだの怖いだの言ってるんじゃないんでしょうね」

「…仕方ないだろ。話そうにも彼が可愛すぎて嫌われてしまったらと考えると怖いんだ」

「馬鹿ですね、逆に透様から見たら結婚したのに旦那は自分のことを避けてて知らんぶり…嫌われているのでは?と思いますよ。」

「そんなことは、ない。避けてるのは…まあ、そうだが嫌っていない。むしろ逆だ」

「なら、尚更話さなくてはいけませんよ。分かりましたね?…車をまわしましたから、上手くやるんですよ。俺も後から行くので」

「あぁ、ありがとう」

手配された車に乗り込み会場へと車を進める。
今日こそ話す、今日こそもっと話す、なんて心に言い聞かせていると手汗がにじむ。
できるだろうか。

俺は彼に嫌われている、とか嫌われたらとか思っているが、彼もまたそう思っているのだろうか。
そうであったら誤解なのだ。嫌いどころではなく、愛しているのに。
パーティ中は他の人もいるし、持ち前の外面の良さのついでに彼にいい顔も出来る。
が、2人なるとまるでダメだ。
自信が欲しい。彼に愛されている、とか嫌われてはいないという自信がほしい。


「あら潤也、早かったのね。お仕事は終わり?」

「母さん…あぁ、終わらせてきた。…透は?」

「透さんなら控え室よ、あなたも着替えて見てらっしゃい。透さんとっても綺麗よ」

「あぁ、わかった」

平然を装って返事をしたが、内心ドキドキだった。
彼のタキシード姿、なんて楽しみなんだろう。もちろん、結婚式の時にも見たが…いや、正確にはきちんと見れなかった。
あまりに可愛すぎてまともに見れなかったのだ。あの時はまだ慣れていなかったし…、今は少しは慣れたはずだ。だから今回こそ、絶対目に焼き付けておく。

自分の控え室に入ると手早く着替えて、髪をセットしてもらう。
やはり透はセンスがいい。着心地も良いが、スタイルがよく見えるというか、とてもバランスの良いデザインだ。
指にハマっている結婚指輪をそっと撫でる。これは彼と自分を繋ぐ大切なものだ。
片時も離していない。
無論、彼自身を離せなくしたいのだが…それはまた高望みというものだろう。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...