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潤也目線
しおりを挟む今日は透と出かける日だ。
なんだかんだいって普通に出かけるのは初めてではないだろうか。
目を覚ますと既に彼の姿は無く、微かに聞こえる物音から朝食を作ってくれているのだろう。
平日でも毎日作ってくれて本当にありがたいし、嬉しい。新婚だった部下の惚気が理解出来る。
だが残念なことに、その部下は両思いなのに対して俺らは違うのだが。
下へおりると明るい台所で料理する彼の姿が朝日に照らされて、眩しい。
まるで聖母ではないか、年甲斐もなくときめいてしまう。
恐る恐る手伝うことはないかと尋ねてみる。一歩前進だ。
頼まれた食器を並べ、2人でホットサンドを食べた。
出来たての、チーズが溢れるサンドは1番美味しかった。また作って欲しい、なんて思いながら少しずつ食べていると「また作りますね」と声をかけられる。
…恥ずかしい、心を読まれていたのか。
彼に食器や仕事部屋の家具のことを聞かれた。
正直、少し驚いた。彼とのお揃いのものが欲しいと思って食器などは揃えた。
仕事部屋やその他の家具も彼の過去の仕事作品を見たりして好きそうなものを揃えた。
少しストーカーのようで引かれないかと心配だったが大丈夫そうだ、多分。
着替えて玄関で彼を待っていると彼がやってくる。相変わらず洒落た格好の彼はさすがデザイナーということがある。
開きすぎず、上品に肌を見せた胸元や足のラインにそったパンツはとても魅力的だ。思わず目を逸らしてしまう。
が、そうしているわけにもいかない。渡すものがある。
キザなことをしたくて彼にネックレスをつけてやると喜んでくれたようだ。…良かった。
仕事で取引をするより緊張する。
向かったのは父親も世話になっている仕立て屋。
オーダーメイドを始め、品揃えも豊富なので彼の気に入るとものがあるといい。
正直、服には特別こだわりもなく、何より彼と揃いのものが着たいし彼が選んだものが着たい。
なので一式彼に選んでもらうことにした。
店員と熱心に服を選ぶ彼を見つめてしまう。
楽しそうだ。
彼が選んだのは柔らかな雰囲気…いや、パーティまで秘密にしておこうか。
パーティで彼を色んな人間に見せるのは少し気が進まない。
彼はオメガだ。
アルファの多い業界で彼を見せるのは気が引けるし、何より魅力的な彼に変な虫が付いてはたまらない。
そんなことがあっては自分はどうなってしまうのだろう。
仕立て屋を出ると、彼の要望で街へ出ることになった。
どれも物珍しいものばかりで、興味が唆る。
兎の掘られた可愛らしいティースプーンを手に入れることができた。もちろん、彼と揃いで。
…何だか変態くさいのはよくわかっている。が、彼のことになると抑えがきかない。
楽しそうに過ごす彼を見ていると自分も嬉しくなる。らしくもなく、笑みなんか浮かんでしまい少し恥ずかしい。
目の前を歩く彼を見ていると、触りたくなる。
頭を撫でたい、抱きしめたい…が、今の俺にはそれが叶わない。
いつかできるようになるのだろうか、そう思っていると集団とすれ違い、少しよろけた彼を咄嗟に抱きとめる。
思わぬ形で叶った願いに呆然としていると彼が不自然にクレープが食べたいだの足早に歩いて行ってしまった。
嫌だったろうか、としょげてしまうが先を歩いていった彼の耳と首の後ろが真っ赤なことを見てしまう。
…ほんの少しだけ、期待してもいいだろうか。
やはり彼をお披露目するのをやめたくなる。自分のものにしたい、彼の全てを。
そう願わずにはいられなかった。
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