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しおりを挟む「…どこか行きたいところとかあるか?」
購入した商品を車に積んでもらっている間、車に向かっているとそんなことを聞かれる。
昼時は少し過ぎてしまったが、出してもらった茶菓子のおかげで空腹感は少ない。
「…良かったら街でも…散歩したいなと」
それなら、と提案をする。
嫁いで来てから…いや、少し前から慌ただしくて街を散歩するということがなかった。
街をのんびり散歩して、ウィンドショッピングや買い食いをするのが楽しいのだ。
潤也さんはそういったのは苦手だろうか、と心配していると案の定少し悩んでいるようだ。
「…分かった。…お前の好きなとこに行きたい」
彼の言葉に胸が苦しくなる。
無意識なのだろうか、毎回毎回こんなことを言われては堪らない。
ここら一帯で一番活気のある通りに車を出してもらい、数時間後に来てもらうことにした。
車を降りると平日とはいえどやはり午後、それなりに賑わっている。
「…何か欲しいものがあるのか」
「いえ、そうじゃなくて…見て回ったり、買い食いをするのがなかなか楽しいんですよ」
「そうか…。俺はあまりそういった経験がないから…」
もじもじと不安そうな潤也さん。
嫌なわけではないのだろう、そこはほっとした。では今日は自分が彼をリードしなくては。
「じゃあ今日は潤也さんの初めてですね、したことないこと沢山しましょう」
「行きましょう」とゆっくり歩き出すと気持ち後ろを周りを見渡しながら着いてくる彼に少し笑みが浮かんでしまう。
変わったお店や、古着屋を見て回る。古着屋は結構好きだ。普通の店では見れないものや、珍しいパーツのついたものが見つかるからお宝探しのようで楽しい。
紅茶やティーセットをメインにしているオシャレなお店に寄ると潤也さんか熱心に柄の先端に兎が掘られたティースプーンを見ていた。気に入ったのだろうか。
「可愛いですね…買いますか?」
彼を覗き込んで自分もティースプーンを見る。たしかに可愛い。それにしても、彼は結構可愛いもの好きなのだろうか。
見た目に反したギャップを見つけてしまい、少し嬉しくなってしまう。
「あぁ…そうだな。…お前の分…と2つ」
そう小さく呟くように2本を手に取り、会計へ向かった彼を唖然と見届ける。
まさか自分の分を買ってくれるとは思わなかった。
またお揃いの物が増えた、そう心がふんわりと温かくなる。
可愛らしくラッピングされたスプーンの入った袋を手に戻ってきた彼とまた道を歩いていると観光客の集団とすれ違った。
狭い歩道だったからか、肩が少しぶつかりよろけてしまう。
「怪我ないか…」
手をつこうと前に軽く出した手はなんの感触もない。
代わりに目の前にあったのは潤也さんの胸と少し上に綺麗な顔。思わず息を飲んでしまう。
つまり今は潤也さんに抱きとめられたという状況だ。
お互いに沈黙が流れる。
「あ、あっちのクレープが食べたいんです。行きましょう」
思わず離れて照れ隠しに先を歩いてしまう。
心臓が飛び出そうだ。
顔もきっと赤くて熱い。
それでも彼は何とも思ってないんだろう。
…惚れた弱みってやつかな。なんて考えながら今はクレープに専念した。
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