こっち見てよ旦那様

文字の大きさ
上 下
6 / 219
2

...

しおりを挟む


「…どこか行きたいところとかあるか?」

購入した商品を車に積んでもらっている間、車に向かっているとそんなことを聞かれる。
昼時は少し過ぎてしまったが、出してもらった茶菓子のおかげで空腹感は少ない。

「…良かったら街でも…散歩したいなと」

それなら、と提案をする。
嫁いで来てから…いや、少し前から慌ただしくて街を散歩するということがなかった。
街をのんびり散歩して、ウィンドショッピングや買い食いをするのが楽しいのだ。
潤也さんはそういったのは苦手だろうか、と心配していると案の定少し悩んでいるようだ。

「…分かった。…お前の好きなとこに行きたい」

彼の言葉に胸が苦しくなる。
無意識なのだろうか、毎回毎回こんなことを言われては堪らない。

ここら一帯で一番活気のある通りに車を出してもらい、数時間後に来てもらうことにした。
車を降りると平日とはいえどやはり午後、それなりに賑わっている。

「…何か欲しいものがあるのか」

「いえ、そうじゃなくて…見て回ったり、買い食いをするのがなかなか楽しいんですよ」

「そうか…。俺はあまりそういった経験がないから…」

もじもじと不安そうな潤也さん。
嫌なわけではないのだろう、そこはほっとした。では今日は自分が彼をリードしなくては。

「じゃあ今日は潤也さんの初めてですね、したことないこと沢山しましょう」

「行きましょう」とゆっくり歩き出すと気持ち後ろを周りを見渡しながら着いてくる彼に少し笑みが浮かんでしまう。

変わったお店や、古着屋を見て回る。古着屋は結構好きだ。普通の店では見れないものや、珍しいパーツのついたものが見つかるからお宝探しのようで楽しい。

紅茶やティーセットをメインにしているオシャレなお店に寄ると潤也さんか熱心に柄の先端に兎が掘られたティースプーンを見ていた。気に入ったのだろうか。

「可愛いですね…買いますか?」

彼を覗き込んで自分もティースプーンを見る。たしかに可愛い。それにしても、彼は結構可愛いもの好きなのだろうか。
見た目に反したギャップを見つけてしまい、少し嬉しくなってしまう。

「あぁ…そうだな。…お前の分…と2つ」

そう小さく呟くように2本を手に取り、会計へ向かった彼を唖然と見届ける。
まさか自分の分を買ってくれるとは思わなかった。
またお揃いの物が増えた、そう心がふんわりと温かくなる。

可愛らしくラッピングされたスプーンの入った袋を手に戻ってきた彼とまた道を歩いていると観光客の集団とすれ違った。
狭い歩道だったからか、肩が少しぶつかりよろけてしまう。

「怪我ないか…」

手をつこうと前に軽く出した手はなんの感触もない。
代わりに目の前にあったのは潤也さんの胸と少し上に綺麗な顔。思わず息を飲んでしまう。
つまり今は潤也さんに抱きとめられたという状況だ。

お互いに沈黙が流れる。

「あ、あっちのクレープが食べたいんです。行きましょう」

思わず離れて照れ隠しに先を歩いてしまう。
心臓が飛び出そうだ。
顔もきっと赤くて熱い。

それでも彼は何とも思ってないんだろう。
…惚れた弱みってやつかな。なんて考えながら今はクレープに専念した。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...