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デニスとジュダ
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しおりを挟むまだデニスが1年生だった頃。
新しい1年には王子がいるという話で学校中は大騒ぎだった。
「ジュダ!!」
「…デニス、走ったら危ない」
「平気平気、正装ってばほんとに動きにくい。でも式典で着るよりやつよりは楽かも」
入学式のあった学校終わり、駆け寄ってきたデニス。
いつも通りのデニスに安心したが、周りの目は好奇心でいっぱいだった。
俺は元々人と話さないし、週末に母上に稽古をつけて貰いに行く以外、俺が何をしているのか知られていなかった。
だから今、デニスと関係があると悟られて、注目の的になっている。
落ち着かない。
人の目は苦手だ。
「デニス、部屋に行こう」
「うん!またジュダといられるの嬉しいな」
足早に寮の部屋に入り鍵を閉める。
外で聞き耳を立てられたら気配でわかるし、壁は分厚いので叫ばなければ大丈夫。
「…友達は、できた?」
「お父様が王子として周りをよく見て、でも普通の子みたいに楽しめって言ってたから…よくわかんないけど、色んな子に話しかけてみたんだ。そしたらみんな敬語なんだ、だから少し寂しくて」
「仕方ない。…周りも慣れれば大丈夫だ、少しの辛抱」
「うん。…でもジュダがいるから大丈夫」
「そうか…でも、武術専攻は放課後に自主練があるからその間は…」
「図書館で勉強するか…頑張って友達作る」
頑張る、とそう宣言した通り、めげずにデニスは様々な子に話しかけていた。
そのかいあってか、ひと月二つ期もたてば多くのクラスメイトや同級生は敬語も使わず友達として接してくれるようになっていた。
けれど変わらず、食事や長い休み時間は一緒にいた
。
そんなある日、昼休みに中庭で父上が「面白かったからぜひ読んでみるといい」と手紙付きで送ってくれた本の分からないところをデニスに教えて貰っていた時のこと。
デニスがトイレで席を外すと、上級生の数人の集団がこちらを見下ろして囲んできた。
「…なんの用だ」
「いいや?…さすが王族様は高価な本を持っていらっしゃる、と思ってな。わざわざこんなとこに来なくても大人しく、王族らしく王宮で勉強してればいいのによ」
こいつらは、武術専攻の中でも素行の悪いで有名な奴らか。
ヒースが話していたのを聞いたことがある。
「…これは俺の本だ」
「へぇ?…だがしかし、いい教育受けてんのな。王族、しかも王子となりゃ試験なんざ結果がどうであれ入れたんだろうなぁ」
頭上で笑いが起こる。
そんなことは無い、と殴りたかった。
細く息を吐き、気を沈める。
エディ様のご意向で試験は匿名で受けた。だからデニスは紛れもない実力で受かったし、その実力はある。
「何が言いたい…」
「お前、王子と仲良いんだろ?学年も部も違うのに同室で親しげだ。雇われ従者か、いや、お前も良い家系じゃなかったか?お前、隠者とかか?チビ助だしな」
下品な笑いが響く。
「黙れ」
必死に抑えた上でそう放つと胸ぐらを掴まれ軽くかかとが浮く。
「随分生意気な野郎だ。…お前、学年首席かなんだか知らねぇけど、調子乗んなよ?」
「乗っていない。乗っているのはお前だ」
自分から手を出してはいけない、母上と約束したことだ。
だから出さない。
「何してるんだ!ジュダを離せ」
野次馬をかき分けて、珍しく怒りのこもった口調で叫んできたのはデニスだった。
「デニス…いいから離れろ」
「嫌だ。ジュダを離して」
「どうすっかな」とニタニタ仲間たちと笑いながらデニスを見下ろす上級生達。
どうしたものかと悩んでいると思い切りデニスが俺を掴みあげているやつに体当たりした。
まさか育ちの良い王子が体当たりするなんて思ってもいなかったのか、よろめいた隙で手を振りほどく。
まずい、とこの場を離れようと怒りに震えるデニスの手を引き人の輪を抜け出そうとするも取り巻きに阻止されてしまった。
母上との約束は破りたくない。ここで手を出せば母上や父上にも連絡がいく。
「逃げる気か?坊ちゃん」
「…確かに僕は王子だけれど、ここではみんなと平等だ。もし仮に王子としての特権を使うなら、君たちの首はもうないだろうね」
冷たく言い放つ彼の言葉にみんなが押し黙る。
そんなデニスの表情は初めて見るほど冷たく、怒っていた。
確かに。デニスが王子としての力を使えばここにいるヤツらを全員退学にすることもできるし、俺を使って倒すことも出来なくはない。
「行こう、ジュダ」
「…あ、うん」
落ちていた本を拾って人の輪を抜けていくデニスを追いかける。
その日、ジュダは大人しかった。
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