運命とは強く儚くて

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テオとカレル

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翌朝。
まだ日が登ってはいないが、ラマール領主邸の敷地では半数以上が起きている。

朝の鍛錬は早朝から行うからだ。他にも自主練をしたりする輩も多く、指導員は子供らが起きる前に自分の鍛錬を済ませる。

「ははうえ…おはよう、ございます」

1週間ぶりにジュダのおはようを聞いた。
相変わらず起きるのが早い。まだ幼いからもっと寝て欲しいのも本当だが…仕方なく早く寝かしつけている。

「テオさん、はやッス」

「ヒース?…おはよう、君も早いんだね」

「おチビがこの時間っつったから来たんだよ」

「ジュダが誘ったの?」

「ちがう…きかれた、から」

なんやかんや仲良しか、なんて思いながら並ぶ2人を見る。
可愛い、と笑みを漏らし「走り込みから、ついて来れるなら着いといで」と走り出した。

少し口喧嘩しつつも鍛錬を一緒にする2人をみて、兄弟のようだと思い、微笑ましく思った。



「テオさん…」

「どうした?」

デニス様もいるのでジュダを先に朝食に行かせ、ヒースと汗を拭いていると真面目な面持ちでヒースが声をかけてくる。

「…テオさんはあんまりここに帰って来ねぇんだよな」

「そうだね、遠いし…あまり宮廷を離れられないから」

「どうしたら毎日テオさんの指導を受けれるんだ?」

意外なヒースの言葉にうーん、と考え込む。宮廷の隊で1番応募年齢が低いのは普通の兵士見習いだ。
だがこれほどの実力を兵士見習いにするのは惜しい。

「分からないな。…でもヒースが望むなら協力はしたい。けどまずは兄さん…領主に申し出てみな」

わかった?と頭を撫でてやると口は「やめろよ」と言っているが顔はなんだか嬉しそうだ。
かわいいやつ、と思いながらヒースを食堂へ送り出した。








「デニス様、お迎えに上がりました」

午後、迎えの御一行がやってくる。その中にはカレルもいて頭を下げられているデニス様の隣にいるジュダがソワソワしていた。

「ねえ、おとうとうまれた?」

「はい。デニス様の弟君がお生まれになりました」

わぁ、と嬉しそうに「おとうとだよ!」とジュダの手を取りブンブン振るデニス様。
早くエディ様や皇帝と会って欲しい。

「…義兄上と少し話したいことがある、いいか?」

「もう少ししたら戻ると思うよ」

デニス様とジュダが荷物を取りに部屋に戻ったのを見計らい、ヒースの話をする。

「…ヒースは実践で伸びる子だから…帝都の訓練を受けさせたい。けどまだ12だから」

「実は私もそういう話でここに来た。…義兄さんにその相談をしに来たんだよ」

ふふ、と笑ったカレルが書類をパラパラと見せてくる。

「…規模はまだ小さいけれどね。前々から皇帝と話していた」

学問の才能や武術の才がある12歳以上の子達が集められる学校のような所だ。
入学するには推薦や試験を受ける必要があるが、孤児も、貴族でも身分・二次性問わず衣食住や学費は保証される。
編入制度もあり、遅咲きの子も入れるとのことだ。

「これなら丁度ヒースも入れるだろう。もう施設は作られているし、あとは武術の指導員だけで、ラマール領にも協力して欲しくて来たんだ」

後ほど兄さんにその話をカレルと共にすると快く受け入れ、希望者を募ると言ってくれた。











「また帰っておいで」

「うん」

荷を馬車に積み込み、最後に兄さんにお別れを言うと頭をわしゃわしゃ撫でられる。
少し照れくさくて「もう、わかったって」と笑うと「体に気をつけて」と言われる。

「兄さんも、足は無理したらダメだよ」

手早くそう返して兄から離れた。
王子が乗るには少し質素な大型馬車だが、その方が野盗に襲われずに済む。

護衛は少ないが精鋭揃いだ。

自分が乗ってきた愛馬に乗り、ゆっくり動き出した馬車の傍らを進むと馬に乗ったカレルが隣にやってきた。

「馬車じゃないの?」

「馬車にしようと思ったんだけれどね。…こうしたら二人で話せる」

なるほど、と笑いを漏らしてしまう。
2日ほど離れていたのが寂しかったのだろうか。

もっと前は離れていても多少は慣れていたのに、お互いわがままになってしまったなぁ、と隣を歩く彼を見て思った。

それも案外悪くない。


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