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テオとカレル
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しおりを挟む「久しぶりに来たな…」
馬を走らせ、急ぎで帰ってきた故郷の森に到着すると懐かしい空気を大きく吸い込んだ。
ラマール領、自然に溢れた北の領地を持ち、優秀な戦士を排出することで有名な領だ。
今回テオが来たのは、ここへ1週間の修行に来ていたデニス王子の護衛だ。
明日には帝都に帰る手はずになっていたのだが、気を利かせてくれたエディ様が1日早く休みをくれたので一足早めに来たというわけだ。
ラマール家の敷地に入るといろいろなところから掛け声やぶつかり合う木の音、金属音、罵声が聞こえる。
どれもこれも懐かしい。
「出迎えご苦労」
背後の気配に振り向かず声をかけると「いえ」と若い男の声がする。
「…あ、あの…テオさん…ですよね、本物」
「そうだよ」
本物、、!と背筋を伸ばす青年。
16、17くらいだろうか。
自分はここじゃちょっとした有名人で、こうして憧れてくれる子は多い。
その青年と馬を引きつつ屋敷へと歩く。
「…君は何を専門に?」
「俺は暗殺とか諜報を」
俺は体が小さいから、正面だと力負けするけど小回りはきくんです。と 誇らしげに話した少年に「いいね」と頷く。
兄さんは家督を継ぐ前から個人で身寄りのない子を集めては戦闘手段を指南する組織を作っていた。
「やあテオ、1週間ぶりかな」
「そうだね。…2人はよくやってる?」
「よくやってるよ。…座りなさい、ゆっくり話そう」
ゆっくりと肘掛椅子に腰掛け、出されたお茶を飲む。温かくて独特の甘みがあるこの味が懐かしい。
「まずデニス王子のことからだ。…剣術はまださせないことにしたよ、朝の軽い素振りだけにして、簡単な護身術とか受け身を教えてる」
「…戦術の方は」
「才能を見せてるよ。…幼いから治すべき所も多いが逆に経験豊富な大人が思いつかない突破口を出す時もある。とても賢い子で将来が楽しみだね」
「王子は賢い人だと思うよ…学びたいことを最高の環境で学べるっていうのもあると思うけど、5歳ながらに知的な方だ」
兄さんの意見に頷きながら皇帝達に報告するレポートを受け取ったり、話を細かく聞く。エディ様と同じで下民階級出身のデニス様は陽者じゃない。
けれどこのまま成長すれば引けを取らないような立派は方になるだろう。
「さて、お前が知りたいのはジュダの方だろう」
「そりゃそうだ。…これでも親なんだから」
「ふふ、そうだね。…ジュダには3日間は個別で新しい技を身につけて基礎をできる限り磨かせた。
残りは競争心や闘争心を引き出そうと思って、少し年上の子達と練習で戦わせたり、競わせたりしたんだが…競走にならなくてね。12歳ではあるがうちの期待の少年とここ2日は鍛錬しているよ」
「…負けた?」
「今のところは勝ってないね、7歳も違えば仕方がないが…その子が口が悪いというか、正直にものをいう子でね…見ていて少しづつ悔しいという感情が出ているみたいだ」
「…そうか…やっぱりここに連れてきて良かったよ。…それで相談」
「なんだい?」
「まだしないけど…ゆくゆくの話ね、ジュダに人を殺す訓練をさせるか悩んでて」
「…テオはどう思うのかな」
「させた方がいいんじゃないかと思う。…デニス様の護衛につくのならかならず人を殺すときが来ると思うし、躊躇してたら自分もデニス様も守れない」
「けど親として、それは正しいのか?ってたまに思う」と付け足すと兄さんが優しく頷く。
「テオの心は親として間違っていないよ。けれど、教えを忘れてるね。…刃を向けるのなら刃を向けられる覚悟を持て。剣を持つのならそれ相応の覚悟を持たせるべきだよ、人を守る為に人を殺すかもしれない立場なら尚更だ」
優しいが諭すような口ぶりで、絡まっていたものが解けるような、そんな気持ちになる。
やはり兄さんに相談してよかった。
「ありがとう。…いずれにせよまだしないけれど、整理がついたよ」
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