運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
122 / 154
Ⅱ- 10

1

しおりを挟む


「…っつ……」

何となく見慣れない場所で、目を覚ます。
頭も体もとてつもなく重たい。

身体を起こそうと力を入れると全身がビキビキと傷んだ。

「后様、お目覚めですか」

部屋の隅にいた侍女が「安静になさってください!」と慌てて出ていったので大人しくベッドに身体を預けるとベッドの横に見たことの無い機械が。

そこから管が通って、なんと自分の腕に三本程刺さっていた。

「えぇ…」

痛くは無いが怖い。
何故こんなことにと考えると電撃のように記憶が蘇る。
そうか、無事に子を産んだんだ。


皇帝は今どこにいるのだろう。我が子はどこにいるのか。

デニスにも早く教えてあげたい、元気にやっているだろうか。

そう思いながら待機していると医師と共に皇帝が部屋に入ってくる。
侍医と、見慣れない中年の医師だ。


「意識がある状態では、お初にお目にかかります。皇帝にお招き頂いた者です。…現在、后様の腕に繋がっております管は点滴というものです」

「点滴?」と首を傾げると説明をしてくれる。なんとも、新しい医療技術で体の中に直接栄養や水分、薬を入れられるらしい。
少し得体の知れないもので怖いと思ったが、出産後、昏睡状態になりそうだった自分を助けてくれたのだから信じる。

「とにかく…目が覚めてよかった。出産からは3日経ったのだからな」

皇帝に撫でられ、額に口付けられる。

「…僕も赤ちゃんに会いたいです」

「もちろん、連れて行こう。が、医師殿の判断を聞かねばならん」

「もちろんです。…ですが、后様が移動するのはお体に負担がかかります。皇子をこちらへお連れします」

「ありがとう。…赤ちゃんは元気?何か弱ってたり…」

「いえ、后様のおかげでとても元気な男の子です」

「良かった」

安堵した。
その後、軽く診察を受け、繋がっていた管は1本だけになり、その場で薬と重湯と一口の粥を食べた。

噛む感覚が妙に懐かしい。











「后様、陛下、失礼致します」

「ほらエディ、来たぞ。我が皇子だ」

テオとカレルが揃って赤ちゃんを連れてきて、そっと抱かせてくれた。

すやすやと眠っている。
ふにゃふにゃしていて、柔らかくてあったかい。

「…やっと会えたね」

小声でそう語りかけ、小さな小さなてを指で擽るとぎゅっと強い力で握り返される。

「可愛い…」

これを見てしまったら、もうあの痛さも、今の痛さも楽になる。
なんとも言えない気持ちで目をうるませていると皇帝が肩を抱き寄せてくれる。

「愛いなぁ…髪がお前そっくりで愛らしい」

「顔は皇帝そっくりですけど」

「それは嬉しいことだ。」

小声で話していると「名前を付けなくてはな」と皇帝がつぶやく。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...