119 / 154
Ⅱ -9
3
しおりを挟む「っぐ…ッぁ」
ベッドの柱と陛下の腕を握り締め、痛さに悶える。
お産がはじまるより、格段にきつい。
いきんでください!と助産師が叫ぶが上手く力が入らない。
全身の骨を粉々にされて、内蔵をすり潰されているようだ。
周りは騒がしいのに全て膜の外のように聞こえる。気が抜けば意識を手放してしまいそうだ。
それでもお腹からどん、とん、と蹴る感覚と陛下の声と手があるから保っていられる。
自分が諦めてしまえばこの子は死んでしまう。
「ッぅう"…!」
「偉いな…頑張れ、好きなだけ握ればいい」
下を噛まないように噛まされた布も唾液でびしょ濡れだろう。
涙も汗も出てきっとぐしゃぐしゃだろうがそんなことは気にする余裕もない。
「少し押します!耐えてください!」
助産師がそういうと間もなく上から圧をかけられる。
声にならない痛みに息を止めてしまう。
「息は止めないでください!」
「っ…、」
ひゅぅ、と無理矢理息を吸う。
痛くて苦しい。
何度か押され、その度に耐え難い痛みを与えられる。
何度それを繰り返しただろう。
周りが何を言っているかも分からず、意識も何故保てているのか不思議なくらいだったその時、ずるりと何かが出る感覚と共に、遠くから声が聞こえてくる。
産声…?
「エディ、産まれた…!産まれたぞ!元気な男子だ」
皇帝が頬を撫でて労ってくれている。
布に包まれたその子を隣へ連れてきてくれた。まさに産まれたばかりで、一生懸命泣いている。
良かった…。
やりました、と陛下に言おうと思っても上手く口が動かない。
はくはくと唇を震わせていると陛下が「分かっている、お前は良く頑張った。…ありがとう、愛してる」と涙を流していた。
可愛い、とそっと赤ちゃんに触れてみると暖かくて守らなくてはいけないという気持ちになった。
…でも今はとても…眠い。
デニスもお兄ちゃんになったんだ、と思いながら意識を手放した。
「産ま…れた」
慌ただしく、緊張感のある部屋に産声が響き渡る。
時計に目をやるともう1日以上が経っていた。
厨房なら湯を運ぶ手伝いをしながらエディ様の苦しそうな声を聞くのは辛かった。
出血も酷く、体力も消耗されていたから少し危ないのではとも言われていたが、終わった。
皇帝が涙ぐんで喜んでいる。
その様子を微笑ましく一同が見守り、後処理に追われていると「エディ!大丈夫か?!」と皇帝の声で場が凍る。
「エディ様…!血の気が引いて体温も下がってる、温めて侍医を!」
油断していた。
ここまでの自分の不甲斐なさを悔やむ前に動かなければ。
産まれたお児を受け取り、丁寧に湯で清めて布で包むと助産師の1人に預ける。
直ぐに侍医がもう1人の医師を連れてやってきた。
属国から事前に呼び寄せていた有名な医師だ。まだ広まっていない最先端の技術を持っていると聞いた。
何やら機械を待ってきて指示をしている。
「皇帝陛下、今からエディ様に点滴を行います。まだ事例がいくつもございませんが、行ってもよろしいでしょうか」
「頼む…エディを何としても救ってくれ」
エディ様の肌が青白く冷たい。
みんなで必死に温め、点滴の様子を見守ること数時間、医師がほっとして表情で頷く。
「…これで大丈夫でございます。万が一に備えて、回復するまでは点滴を少しづつ続けさせて頂きます」
「良かった」と傍でエディ様の手を握っていた皇帝がエディ様の手に口付けて涙を零す。
自分もそんな喜びに浸りたいが、まずはカレルに報告にいかなくてはとそっと部屋を出た。
0
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる