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テオとカレル
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しおりを挟む「相変わらずの早起きだね兄さんは」
「お前だって言えた口じゃないだろう?…ジュダも早起きだね」
朝、いつもの時間に起きて鍛錬場に来ているとすぐにテオとジュダが眠そうなカレル君を連れてやってきた。
休みにも関わらず鍛錬場に来ていた青年達はカレル君が来たとわかるとビシッと頭を下げていた。
そのカレル君はいろいろ執務で疲れているだろうに、ジュダのことを見たいと来ていた。
「…おじうえ、おねがい…します」
「こちらこそよろしく頼むよ。…いつもやっているようにして見せてくれるかい?」
「…うん…!」
青年達とテオが走り出すとジュダも走り出した。
石畳に座り、観察していると3週目程から先程まで着いてきていたジュダがいなくなっていた。
走るコースは森の中。
邪魔にならないようにゆっくりコースを歩いていると走る青年達とすれ違う。
と、その少し後ろをガサガサと追う影が。
ジュダだ。
ジュダは走らず木の上を伝ったり、走ったりして着いてきていた。
猿のような身のこなし。体が小さいからできることだろうが…動きに無駄がない。
元にいた環境のせいだろうか、大したものだと感心しつつ見守る。
走り込みの後の柔軟、基礎体術、基礎剣術。うちの門下生は6歳が最年少だがそれに引けを取らない。
特に剣術、ジュダはナイフを扱っているようだが小回りのきく体を利用して素早く懐に潜り込んでいる。
その場の判断力、器用さは5歳とは思いがたい。
一連の流れを終え、各自で別れて鍛錬を始めた頃に声をかける。
「…ジュダ」
「おじうえ…」
駆け寄ってきたジュダに飲み物を手渡し頭を撫でる。
「ジュダはすごいね。…このまま続ければもっと強くなれるだろう。…少し、新しい鍛錬をしようか」
「や、…りたい…!」
嬉しそうに頷くジュダの手を引いて移動しようとすると「兄さん!」とテオが声を上げる。
「…しないと思うけど俺のみたいに、無茶なことはしないで」
とても心配そうな顔だ。
ぽん、とテオの頭を撫でて安心させてやる。そんなことは誓ってでもしない。父がやった鍛錬の内容自体は正しいかもしれないが、度が過ぎていた。
ジュダに辛い思いはさせない。
テオは頷いてカレル君の元に戻っていった。剣の手ほどきをするらしい。
「今から礫を20個づつ持とう。それをお互いに投げ合って最初に当たった方が負けだ」
「…わかった」
礫を20個袋に入れてベルトにつけてやる。
「あと3分位で鐘が鳴る。それまでだ。場所はあの柱からあちらの柱まで、いいね?」
「…はい…!」
それでは、と距離を取り、「始め」と喝を入れる。
開けた場所だ、投げやすく狙いやすいが同じように当てられやすくもなる。
10粒程手に取り構えているといきなり間合いを詰めてきた。
さすがに速い。
投げてくるか、と様子を見て足を1歩引いてみるとやはり立て続けに3発放ってきた。
どうやらテオに投げ礫の手解きは受けているらしい。
1発目、2発目は避けれた。
3発目はタイミングと角度をずらしたようで避けきれず杖で弾き返す。
と、その動きを利用して同じように3発放ってみると素早く身を翻して避けられてしまった。
動体視力も反応速度も良い。
姿勢を低くして小回りがきく体制を維持しているのだろうか。左手を地につき体を支えている。
と、新しく袋に手を伸ばした隙を狙って手に残っていた残りの6粒を放ってみる。
さすがに当たるだろうか。
1、2、3、4は避けた。が翻した方向に礫を飛ばすとさすがに体制が崩れる。
無理もない、左手しか支えがなかったのだから。
するとナイフを腰から抜き、残りの2発を弾き返してきた。
「…なぜナイフを使おうと思ったんだい?」
腕を下ろし、ゆっくりしゃがみ込むとあちらもナイフを下ろし「えっと…」と口を開いた。
「…まだ終わっていないだろう?」
その瞬間、他に残していた礫をジュダの胴に当てて杖の先端をジュダの首元に添えた。
鐘が鳴る。私の勝ちだ。
唖然とするジュダの頭をぽんと叩き「怪我はないかい?」と確認する。
「…さて、反省会だ。座りなさい」
ナイフを収めて腰を下ろしたジュダ。すぐに立てるような座り方、テオが教えたのか…テオがこの座り方しかしないから覚えたのかは分からない。
「自分の直すところは分かるかな?」
「…はい。…まだおわってない、のに…やめたからです」
「そうだね。…相手がどんな様子でも完全に勝つまでは気を抜いてはいけない。あの一瞬で、どんなに強い人でも負けてしまう」
「…ははうえも?」
「そう。…テオは油断しない子だ 。…さて、良かったことを話そうか」
「なぜナイフを使おうと思ったんだい?」と尋ねるとジュダが杖を指さす。
「さいしょは、つかわないほうがいいとおもってた。…けどおじうえがつかったから、おれも…つかったらもっとできるって」
「そうか。…えらいね、その判断は素晴らしい。…だが自分でダメなんじゃないかと思っても決めつけずにやってみるといい。…練習で良くないことなら教えるし、実際にそういうことができる人が勝てる」
「かつ…」
「誰かに勝ちたいのかな?」
「…わからない…けど、まもらなきゃいけない」
「そうか」
まだ勝つ喜びを知らないのか。
誰かを守ることを目標に強くなるのは良い事だが実感がなかなか分かりにくくモチベーションもぱっとしないのも事実。
強くなることで、誰かに勝ち、誰かを守ることができることに気がつけば磨かれるだろう。
残念ながら武術をするジュダと同年代の子たちはここにはいないようだ。
…できることなら1週間だけでもうちに呼びたい。
自分の一存では決めかねれない。
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