運命とは強く儚くて

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テオとカレル

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「ジュダ、ご挨拶しなさい」

「…こ…んにちは」

「こんにちは。…はじめまして、テオの兄のアネストだ。」

ぎゅっと拳を握り、落ち着かない様子で挨拶をしてくれた細い子の目線に合わせてしゃがみ、頭を撫でて挨拶を返す。

この子が自分の甥にあたる子、ジュダだ。
カレル曰く、慣れた方だがまだ初対面の人には警戒してしまうということ。

テオからの手紙で聞いてはいたが…確かに緊張と言うよりは野犬が警戒して構えている感覚に近い。

確か育ちはスラムで詳細は不明、身体能力が高く勘も鋭く、咄嗟の行動が齢5歳とは思えない…ということらしいが、

ジュダを緊張させないように優しく語りかけながらも彼を観察する。
確かに同年代の子よりも痩せてはいるが動きがしっかりしていて必要な無理のない筋肉がついている。

「兄さん、悪い癖が出てる」

「本当だね。すまない。…テオも実際に会うのは久しぶりだね、また大きくなったんじゃないか?」

「そんな訳ないだろ?…久しぶり、義姉さんや甥っ子達は元気?」

「元気なことこの上ないよ、みんな変わっていない…強いて言うなら子供達が大きくなったことだね」

しばらく大人で談笑をしていたが、やはりジュダは居心地が悪そうだ。
無理もない、祭典終わりの夜だ、疲れているだろうし大人の会話にはついていけないだろう。

「ジュダ、眠い?」

「……」

テオが親になっている、ということに少し感動をしてしまった。
無言で頷いたジュダを膝に抱き上げたテオを見てカレル君とジュダに感謝をした。

「…明日はいつも通り鍛錬かい?それともさすがに休み?」

「一応あるけど来るやつは少ないだろうね、自主練みたいな感じだよ。…俺は行くけどジュダは…休む?」

「…いく…たんれん…」

眠そうだが意志の強そうな返答だ。

「なら、僕も行こうかな。…ジュダの鍛錬を見てみたい」

「なら私も行きたい。…明日はせっかくの休みなので、息子の勇姿を見たい」

「こりゃ大事だね…ま、いいけど。俺は教えるのが下手だから…ジュダが兄さんに教わるものは大きいと思う」

「そうかい?…私は現役の時でもお前には適わないと思うよ」

「それは分からないけど。…俺は自分の感覚でしか分からないから、俺のやり方でしかジュダを伸ばしてやれない」

「ジュダは俺より才能があるから」と既に眠ってしまったジュダの頭を撫でて呟くテオ。
悲しいだとか、嫉妬の表情ではない。ジュダに対する愛しさと期待、自分を超える存在を目にして喜んでいるのだろう。

「…ジュダを部屋に連れていくよ」

「ありがとう…重いよ?」

「大丈夫、テオよりは軽い」

「ばーか…」

ジュダをカレル君にわたし、ついでにからかわれて少し赤面するテオ。
やはりこんな顔をさせられるのはカレル君だけだ。



「ったく…カレルのやつ」

「…テオ」

「何?兄さん」

「いい家族を持ったんだね」

そう伝えると一瞬キョトンとしたテオだったがすぐに照れくさそうに笑い、満面の笑みで「当たり前だろ」と言ってのけた。
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