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テオとカレル
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しおりを挟む「正直、君と会うまでは半信半疑だったんだよ」
少し長い昔話の後、ふふ、と笑いながら義兄上がこちらを見る。
「テオを本当に大切に思ってくれているのか、興味本意では無いのかとね。…陽者の中には隠者に負けるのを嫌う人もいるだろうし…特に力なんかを」
「そうですね。…でも私はテオに武術で勝とうだなんて少しも思いませんよ。むしろ、たまに教わっているくらいだ」
「君は変わり者だね」
「よく言われます」
2人で顔を見合わせてしばらく笑うと時間を告げる鐘がなる。
「そろそろ行かなくてはなりません。…ではまた最終日に」
「そうかい。あぁ、ジュダに会うのも楽しみだよ」
最後に義兄さんと握手をして部屋を後にした。
いい人だ。
1度だけ、義兄上の奥さんにも会ったことがある。元気でさっぱりした方だった。鍛錬終わりの食べ盛りの子供達に元気に食事をよそっているのが印象的だった。
義兄もテオもあの迫力に敷かれている。まあ、義兄上もそれはそれで幸せそうなのだからいいだろう。
…自分もテオに尻に敷かれている自覚はほんの少しあるが、そんなことはいい。
書斎に戻り、尋ねてくる各役の者たちの総指揮をとったり、書類に目を通す。
大事な祭典だ、適当に見逃す訳にもいかず気がつけば夜になるまで執務に没頭していた。
使用人を呼んで夕食を断り、眉間を抑え背もたれにもたれ掛かる。
「…疲れた」
ジュダは今何をしているだろう。エディ様に合わせているから今頃は風呂にでも入っている頃だろうか。
風呂か…。
面倒だな。
今日だけではない、今までの疲労も溜まっている。
これからまだ3日間、奔走しなければならないと思うと気が重い。
大きくため息を着いているとドアをノックされる。また誰か何か持ってきたのか。
「どうぞ」
姿勢を戻し、声を整えてそう答えると開いたドアの隙間から体を滑り込ませたのはテオだった。
「ど?やってる?」
「テオ…」
彼の顔を見た途端、緊張が一気に解れる。
席を立ち、よろよろと彼に抱きつくとしっかり受け止めてくれた。
「おっと…こぼれるこぼれる」
彼が持っていたバスケットを近くの机に置いて抱き締め返してくれる。
「…会いたかったよカレル」
「私もだ…疲れてしまった」
「そうみたいだね。…ほら、座ろう」
優しくあやす様にソファへと座り、彼に膝枕をしてもらう。
「…護衛はいいのか」
「…それが…エディ様と陛下が一緒に風呂に入って…始まっちゃったから、下がっていいって陛下が来た。…夕飯も持ってきた。どうせカレルもまだでしょ」
「そういうことか…。…ああ、まだだ。助かる」
陛下…そんな元気だったとは…。
自分はこんなにヘトヘトだというのに。
「…今日は帰ってこれそう?」
「…急な仕事がなければ。…奥に仮眠室があるから…そこで寝ようかと」
「…俺もここで寝ていいかな」
ちらりとこちらの様子を伺うようにテオが見てくる。彼はあまり目に見えて甘えることはしないが…これは…。
「それは嬉しいけれど…狭いよ?」
「いいよ。…なんなら俺床でもいい」
「それはダメだ。…一緒に寝ようか。護衛はいいのかい?」
「今日は夜当番じゃないから」
ふふ、と笑いながらこちらの肩に寄りかかり、バスケットを開ける彼。
笑い方は義兄上にそっくりだ。
だが少しテオの方が無邪気というか、元気があって自分は好きだ。
「サンドイッチにしてもらった」
「美味しそうだね」
何気ない話や愚痴を言い合いながら、ゆっくり夜を過ごし、久しぶりに一緒に眠りについた。
特に触れ合うとかはないけれど、こうして彼と一緒にいられるだけで幸せだと思った。
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