運命とは強く儚くて

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Ⅱ -6

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「じゃあデニス、気をつけてね。…今日のお名前は?」

「ルシウス!」

「そう。お父様のことは?」

「こうていへいか!おじうえ!!」

「ルシウスの家は?」

「コレットりょう」

「よく出来ました」

式典の服に着替え、皇帝よ元に向かう前にデニス祭典中のことについて確認する。
祭典中は皇子の身分を隠して、遠い親戚を名乗らなければならない。

薄布で口元を覆っているから顔も分かりづらい。
身分の高い方達が顔を隠すのはおかしなことではないし、今日はそばにいるジュダも顔を隠している。

そばにいられないのは心配だが、自分だって安心していられる立場では無い。

よっこいしょ、と立ち上がり、テオに身支度を整えてもらっていたジュダの頭を撫でる。

「ジュダ、デニスをよろしくね。…お祭り、楽しんでおいで」

「はい…!」

新しい衣装に礫やナイフを仕込んでもらって嬉しそうだ。
テオとおそろいなのが嬉しいのだろう。


「…エディ様、そろそろ」

「分かった。…2人とも、またあとでね」











「お身体、大丈夫ですか」

「大丈夫。…今日は挨拶だけで食事会には出ないから」

市民や王宮内の広場で前夜祭が行われる今日は、皇帝と使徒が別で会見や食事会が開かれる。

自分はその使徒のうち、重要な方との会見だけで済むよう皇帝が計らってくれた。

どこかへ行動する間は主にテオが一緒にいてくれる。というよりいなければならない。


皇帝との待合場である控え室に入ると既にいつもより豪勢な衣装に身を包んだ皇帝が待っていた。

「…その衣装、似合っているな。選んで正解だった。着心地は苦しくないか」

「ありがとうございます。…はい、とっても着心地良いです。陛下もお似合いですよ」

会見の為に自分が着ている衣装は陛下が陛下と対になるよう選んでくれたらしい。
お腹を圧迫しないゆったりとした作りで、軽くて心地よい。

「もう相手は到着している。…行こうか」

そっと手を取られ、2人で隣の応接間へと足を踏み入れる。

身分の高い方から順に通されるらしい。

「皇帝陛下、皇后様のお成りでございます」

カレルさんの呼び掛けと共にドアが開かれ、壇上のちょっとした玉座に腰掛ける。
昔に比べて慣れたとはいえ、やはり緊張してしまう。
相手は大事な客人、失礼のないようにしなければ。

各々、順に挨拶が始まり、それぞれの土産物を紹介されたり祝辞を述べられたりと退屈はしなかった。
この人が名乗るまでは。


「皇帝陛下、加えて皇后陛下。ジャネット子爵でございます。…この度は皇后陛下のご懐妊、並べて収穫祭の開催おめでとうございます。」

「ジャネット子爵、その祝辞に礼を言う。…見ての通、めでたく2人目の子を授かった。…この国は安泰、だが…それを乱すような輩がいれば、だ」

「滅相もございません。…そのような輩、いるはずがございません。もしいるのでしたらこのジャネット、ご尽力致します」

「それは頼もしい…ではまた食事会で」

僕とお腹の子、デニスの暗殺を目論んでいると報告を受けたジャネット子爵。
ほとんど自分は喋ることなく、皇帝が上手くまとめてくれたが緊張というか、恐怖があった。

「…もう大丈夫だ。お前は素晴らしいな、全く態度に出ていなかった…大丈夫か?」

「はい。…少し恐ろしかったですが…大丈夫です」

「そうか…もう少しで終わるが…無理があるのなら途中で下がっても構わない」

皇帝に隣から抱き寄せられ、これの匂いと体温に落ち着きを取り戻しながらも我が子を失うかもしれない恐怖が頭にこびりついていた。
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