運命とは強く儚くて

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Ⅱ -4

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「起きたか…おはよう、と言っても夕方だがな」

「お疲れ様です。…もう政務は終わりですか?」

「あぁ、早く終わった。…お前の寝顔を見たくて」

起き上がると皇帝が柔らかくキスをして抱きしめてくれる。
すぐに離してくれるものかと思ったが、数分たっても解放してくれない。

「…陛下?」

「少し、心配になった。…テオの報告を聞いて…もうお前を手放したくは無い。俺が居ない間にお前に何かあったらと思うと」

「…陛下…」

「名を呼んでくれ…」

掻き消えそうな声。
肩に顔を埋める彼の頭を優しく撫でて抱き締め返して「アル…アルベール、大丈夫だから」と繰り返す。

「…いなくならないでくれ」

「いなくなりません、ずっとおそばにいますから」

子供のような様子の皇帝の背中を撫でながら小さな声で童謡を口ずさむ。
幼い頃、皇帝と初めて会った時から知っている曲だ。

しばらくそうしていると寝息が聞こえてくる。
どうやら寝てしまったらしい。お疲れだったのかもしれない。

寝かせても良いが…もう少しこのままで。

そう思っているとデニスが寝室へ入ってくる。

「おかあさま、おとうさま?」

楽しそうに声を上げたデニスにしぃ、と口に人差し指を添えて静かにするよう促し、手招きする。

「おかえり。…ジュダはテオのところ?」

「うん。…おとうさま、ねてるの?」

「そう、お疲れなんだね」

そっか、と納得したようなデニスがちらりとこちらを見上げてくる。
うらやましいのだろうか。

「おいで」

ぽん、と皇帝のいる反対側を示すとベッドに上がり込み、小さく丸くなるデニス。

空いている手でデニスを撫でているとそのうちデニスまで寝てしまった。

また大きくなっただろうか。

血は繋がっていないのに、どこか表情などが皇帝に似ていると思うことがある。
一緒にいるからか、皇帝を父としてもよく見ているからだろうか。

まだまだ死ねない、と自分の腕の中で眠る2人を見て思ってしまう。










「失礼致します」

「しつれい…します」

ジュダと少し話した後、デニス様が向かったという皇帝達の寝室を尋ねるとベッドには3人の姿が。

ベッドに体を起こして眠るエディ様に抱きつくようにして眠る皇帝と、エディ様の太腿に頭を乗せて甘えるように眠るデニス様。

それを見ていたジュダが小声で口を開く。

「…しあわせ…」

「…本当に、幸せそうだ」

「まもる…」

「そうだね…。でもね、俺にとってはジュダもカレルも守る存在なんだから」

「…いっしょに…ちちうえ、まもる」

「っはは、そうだね。…今から鍛錬、2人でしようか?」

そう提案すると、表情こそ大きく変わらないが俺にはわかる。
キラキラと本当に嬉しそうにジュダが頷いた。

しばらく一緒にいてやれなかった。残りの時間はジュダと過ごしていてもバチは当たらないだろう。

幸せそうに眠る3人を起こさないよう、小さなジュダの手を取って鍛錬所へと向かった。

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