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Ⅲ -2
2
しおりを挟むす、とテオが構えをとると周りの空気が変わる。
武術を嗜むものとしては単純な動作なのだろうけれど、的確に鋭く突き出される蹴りと突きは圧倒されてしまう。
幼い2人も食い入るように見ている。
特にジュダは目をキラキラさせて、そのまま吸収する勢いだ。
「…と、これが基本動作と呼吸を組み合わせたものです。」
「呼吸?」
「はい。動作と上手く合わせて息を吸ったり吐いたりするとより良く力が発揮できたり、上手く受身が取れたり、体術をするのなら身につけるのは必須です」
難しい。
デニスとジュダが教えて欲しいと強請ったので自分はアッシアと仕事がてら子供2人がテオに指導してもらっている様子を見守る。
デニスにもいつ何が起こるかわからない。
そんな時に少しでも自分の身を自分で守れるようになって欲しい。
僕らは決して強い立場にいる訳じゃない。
「こー?」
「…そう」
不器用ながらにデニスに教えてくれるジュダ。
その光景を見つめるテオの顔が今までにないような、優しくて幸せそうだ。
「テオも親してるね」
「そうでしょうか…上手くやれているかどうか」
「そんなのみんなそうだよ、多分。僕だって上手くは出来ていない。…けど凄く幸せなんだよね」
「はい。幸せです」
「おとうさま!みてて!」
夜、寝巻き姿で皇帝に今日習った体術を披露するデニスを皇帝が真剣に見ている。
まだまだ未完成の型だが、幼い方が覚えが良いのだろうか、形にはなっている。
「素晴らしいな、偉いぞ。…頑張ったんだな、もつと詳しく聞かせてくれ」
皇帝に褒められ、嬉しそうに笑いながら膝の上に上がると今日の出来事を楽しそうに話すデニス。
話したいことが沢山ありすぎて飛び飛びだが、一生懸命な姿が愛らしい。
皇帝もそう思っているのだろう、うんうんと話を聞きながらもずっと頭を撫でている。
「やっと寝たな。…愛い寝顔だ」
「ほんとに。…沢山動いたので疲れたのでしょう」
自分達の寝室で眠ってしまったデニスをアッシアに引き取ってもらい、皇帝とベットへ入る。
入るなり抱き抱えられ、唇を奪われてしまった。
「愛しい我が子と過ごすのも楽しいが…やはりお前と2人といるのは格別だな」
「僕もそう思います。…今日もお勤めご苦労さまです」
皇帝の頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。
皇帝のこんな甘えた顔が見られるのは自分だけの特権だ、と優越感すら抱いてしまう。
「体の調子は悪くないか?」
「はい。順調だそうです、まだ定かではありませんが…」
「そうか。お腹のことも大事だが…お前自身が1番大切だ。それを忘れるなよ?…自己犠牲はだめだ」
「分かっています。…今までの人生で1番、自分の体を気遣っている気がします」
「そうしてくれ。…俺は一生、どんな時でもお前を大切に気遣うがな」
「嬉しいです。…けど、きちんとご自愛なさってくださいよ」
「わかっている」
ふふ、とお互い笑いながら彼の胸へ顔を埋める。
…陛下の匂い、落ち着く。
「おやすみ」
低くて優しい彼の声。
全部全部僕のもの、と彼の胴に腕を回して目閉じた。
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