運命とは強く儚くて

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テオとカレル

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「ジュダ…!」

夕方、ジュダを孤児院へ迎えに行くと準備万端といったふうに小さな麻袋を背負った彼がこちらへ駆け寄ってくる。

「…一緒?」

「うん、一緒に行こうね」

後から来た修道士とカレルが話している間にジュダ用に付けた馬具を調整し、乗せてみる。

「怖くない?」

「…楽しい」

そっと馬の毛並みを撫でているジュダを微笑ましく見守っていると、修道士に声をかけられ頭を下げて少し話した後にようやく城へと出発した。

走らせず、少し駆け足程度に馬を進めながら3人で話しながら森をぬけていく。

「あそこで寝るんだよ」

「…大きい」

「大丈夫、私たちが寝るベッドは少し狭いからね。…何せ3人で寝るのだから」

「一緒…?」

きらきらと金色の目が輝く様子が可愛らしい。
「一緒だよ」と珍しく緩んだ顔のカレルに少し笑ってしまいがら裏門から宮廷へと入る。

今は夕方、皆厨房など給仕に出払っていて使用人用の廊下には人は少ない。

その合間を狙ってジュダを自分たちの住んでいる一角へと連れていく。

「ここが俺たちの住んでるところだよ。…もうすぐご飯だから、荷物を先に片付けよう」

カレルと2人で、買ってあげたものやジュダが持ってきたものを箪笥にしまいながら話をする。
鉛筆とノートをあげるとそれは嬉しそうにするものだから思わず頭を撫でてしまう。

俺はまだ良い方。
カレルは終始ニコニコしぱなっしで、表情筋がいつもより大分柔らかいようだ。

「夕食だ、行こうか」

本来、カレルの身分だと給仕される立場だが、料理の用意のみしてもらって後は自分達でやっている。
無闇に人を入れたくないのと、使用人がいると変に気を張らないといけないかららしい。

つまり、食事の時くらい気を抜かせてくれ、ということだ。

ジュダにも手伝ってもらいながら熱々のビーフシチューと焼きたてのパンを一緒に頬張ると、初めて見る料理に不信げな表情だったジュダの顔がパァっと明るくなり、夢中で食べ始めた。

小さな口を大きく開けて美味しそうにもぐもぐする姿はやはり幼い子供だ。
今まで得られなかった愛情や知らないことを与えてやりたいと思ってしまう。

カレルも同じ気持ちだろうか、なんて彼の方をちらりと見ると自分の食事の手を止めてデレデレとジュダの方を見ていた。

お腹もふくれ、ジュダが眠くならないうちに少し話をしておこうとカレルが切り出す。

「ジュダが来てくれて嬉しい。…けれど私たちはいつも通り仕事をしなければならない」

「…一緒じゃない?」

「ジュダは俺の仕事の手伝いをして欲しいんだ」

「てつだい…」

「俺の仕事は、エディ様とデニス様をそばにいてお守りすることなんだ。…だから明日からジュダはデニス様の傍で一緒にお勉強をしたり、遊んだり、守って欲しいんだ」

小さな子にはあまりに重い話かとは思ったが、もしジュダを引き取るならば、結局はこうなってしまう。

ジュダの役職は歳も近いデニス様の目付け役だ。

良い面は多い。王族、しかも王位第一後継者の目付け役となれば共に恵まれた環境で勉強したりできる。

けれどジュダは引き離されたと思うだろうか。

「やる…!」

そんな心配はつかの間、がんばる。と頷いたジュダの目はわくわくするような好奇心が宿っていた。

人と関わるのは苦手かと思っていたが…慣れればそうでも無いのか。

「ありがとう。…ジュダは他にやりたいことはある?」

「…けいこ」

「分かった、時間がある時に教えてあげる」

体術を教えて欲しいらしい。…本当に愛くるしい。
勉強はカレルが夜にも教えてくれると聞いてさらに嬉しそうなジュダも次第にウトウトし始めたので急いで風呂に入れ、ベッドへ寝かせるとすぐに寝てしまった。

「…ふかふか…」とカレルに抱かれてベッドに入れられた時に呟けばカレルの表情筋は緩みに緩んでいた。

「…私達も寝ようか」

「そうだね」

ジュダを真ん中にして3人寄り添って寝る。こんなことは初めてなのに謎の安心感に心地良さを覚えてしまう。

それに何より、幼子の体温はとても温かい。

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