運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
67 / 154
Ⅱ -8

1

しおりを挟む


「居心地はどうだ?」

「静かで良いところです。…王宮からそう離れてはいないのにゆっくりできて」

ベッドの上で、皇帝の胸の中にすっぽり入って一緒に書物を読んでいる。
せっかく2人でいられるのだからと皇帝直々にこの国の内情や外交などを教えてもらっているが、初めて知ることが沢山だ。

それにしても…

「…陛下がとてもいい匂いです」

「そうか?…俺から言わせればお前の方がずっと甘い香りがする。ずっと嗅いでいたら酔ってしまいそうだ」

「離れます?」

「いや、酔わせてくれ」

擽るように腹を抱いてくる彼に笑いを漏らす。
大事を取って早めに離れに来たが、まだ発情は始まらない。
予定ではあと2日かかるが、これ程陽者の皇帝と一緒にいて早まらないものだろうか。

「発情期が終わったら行きたいところがあるんです」

「ほう?…言ってみろ」

「僕の祖国に…デニスを連れて兄さんと姉さんのお墓に行きたくて」

「なるほど。…それは俺も行きたい、手配をしておこう」

デニスとあの国を出た時、デニスはまだ赤ん坊だった。バタバタとしていたし、もう一度お墓に行きたい、デニスに祖国を見せたい。

「ありがとうございます」

「お前の兄も姉も、俺の義理の姉と兄だ。…それにデニスに祖国を見せたいだろう」

「…僕も思ってました。一緒ですね」

二人だからか、少し甘えるように言ってしまう。
優しく微笑んだ皇帝と軽いキスを交わし、再度本に目を落とす。

「…もう戦はしないんですか」

「そうだな…もう目的はある程度果たした」

「目的?」

「…まず、お前を見つけること。…それと、近隣で情勢が悪かったり何かしら問題がある国を属国にして正す。…それが目的だ」

「だが、決してそれが良いこととは一概に思わない。人が死んだのは事実、俺を恨む者も多かろう」と自嘲するように付け足した皇帝の手を握る。

確かに1度は恨み、恐れたかもしれない。

皇帝が国に攻め込まなければ兄さんも、もしかしたら姉さんも死ななくて、4人で暮らしていたかもしれない。

けれど国の貧富の差はとても激しくて、今は貧困層も暮らして行けるように整えられていると聞いている。他の国も同じだ。
皇帝に助けられた者もいる。

「…本当なら陛下は僕の仇かもしれません。けど僕はあなたを愛してます、陛下が成してきたことを今一番近くで見て、陛下の苦労を一番見ているつもりです」

「陛下は立派です」と頭を撫でてみると皇帝の顔が少年のように綻びる。

「お前にこうして頭を撫でられるのは好きだ。…もうずっと昔、まだ幼子の頃母にされた時のようだ」

もっと、と言わんばかりに頭を擦り寄せる陛下の頭を優しく撫で続ける。
確か彼は幼い頃に両親を無くしている。叔父が皇帝を引き継いだとかで随分寂しい思いをされただろう。
兄弟も近しい親戚もそれ程いなかったのだろうから尚更。

「甘やかさせてください。…僕がうんと陛下を甘やかしますから」

そう言って彼をデニスにするように抱きしめた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...