運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
66 / 154
テオとカレル

3

しおりを挟む


「おまたせ」

「…荷物はそれだけ?」

「カレルが多すぎるんだよ」

建物自体に入ったことはあるが、部屋に入るのは初めてだ。
エディ様はまだ発情期が始まっていないが、体調を見てそろそろというので大事をとって皇帝と共に部屋に入ったらしい。

あとは怪しい者が入ったこないようにその都度様子を見るのと、食事や希望のものの差し入れ。

実質休暇だ。

1週間程度だが洗濯はするし、何かもって行きたい物もそれほどなかったので随分身軽で入ることになった。

先に入っていたカレルは大荷物で、書物やら仕事やらなんやら持ち込んでいた。
荷解きを終え、彼の元に行って話をもちかける。

「…あのさ、子供の事なんだけど」

「…やっぱり反対?」

ソファで本を読んでいた彼が本を閉じて顔を上げる。

「反対じゃない。…ただ少し不安になっただけ」

「不安?どんな?」

「今は護衛とか世話係とはいっても…こういう仕事だから何があるか分からない。…自分のせいで子供に何かあればって」

「なるほど。…私はもちろん君を失いたくないし、けど君縛ることもない。子供もきっとそう思うだろうね。…もちろん何も無くて、そばに居ることがベストだけれど、もし何かあっても生きていけるように育てたいし、ずっと心に残るくらい愛してあげたい」

諭すような彼の落ち着いた声色に考えに落ち着きが出る。
任務は最優先かもしれない、けれど自分の命の優先度が守るものが増えることによってまた一つ上がるだけだ。

「…今度出かけた時は…孤児院を回ろうか」

「そうだね。…さて、今日は何しようかな。カレルは何するの?」

「とりあえず持ってきた書類整理と、仕事かな」

「急ぎ?」

「いや…でもやっておきたい」

やっぱり仕事優先だよね。
…でも今は時間はたっぷりある。それなのに、と考えるとこちらにも考えがある。

「テオは何する?」

「…カレルのそばにいようかな。邪魔って言われたって、急ぎじゃないなら邪魔するよ」

「それは怖い。…そうだな、急ぎではないから…私もテオと過ごそう」

俺の勝ち。
この一週間は特別。

「読んでる本があってね、分からない所があるんだ」

「どれ?…私の知っているものだろうか」

「カレルの本棚から持ってったんだから知ってるよ。…これの第三章…のどこだったかな」

「それもそうだね。…あぁ、その本はややこしいな」

彼と二人、ひとつの本を覗き込んで、真面目に話をしたり笑いあったり。
この一週間は幸せに過ごせそうだと思った。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...