運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
62 / 154
Ⅱ -7

1 皇帝目線

しおりを挟む


「エディ、起きているか」

寝室へそっと入り声をかけると人の気配がない。
天蓋をくぐり、ベットを確認しても彼の姿は無かった。
何故だ、と眉を顰めるとふわりと夜風に髪が揺れる。バルコニーへの扉が開いている?

まさか…誘拐か。

「エディ!」

慌ててバルコニーへ飛び出す。と手すりに腰掛けぼんやりと外を見ているエディがゆっくりと振り向いた。

「…陛下?…どうされたんですか」

「よかった…無事だった…」

ほっとして思わず彼を抱きしめる。
控えめにまわされた彼の腕に本来の目的を思い出す。

「…その…発情期の件だが…」

「離れに行きます。…大人しく、過ごしていますから安心して…」

側妻とお過ごしください、なんて彼は言いたいのだろうか。

「…行くな」

「ですが」

「頼む…。俺が悪かった」

どこから説明すれば良いのだろう、ただ彼を引き止めたいが為に謝ることしか出来ない自分が情けない。

「陛下が…陛下が言ったんじゃないですか…愛してるって、ずっと傍にいてくれるって…。僕だって不安なんです、国を背負うあなたが好きです、そんなあなたと添い遂げたくて…でもこんな体で…」

初めて見る彼の感情の破裂に驚きつつ、彼の言葉に胸が締め付けられる。

「嬉しかったんです…発情するって、あなたと結ばれるかも、あなたとの子を身篭れるかもって…。自惚れてたんです、あなたと子を成せるのは僕だけじゃない…だから他の…」

「もういい…やめろ」

涙を流す彼を強く抱き寄せる。
そんなことを思っていたなんて。…いや、分かっていたはずだ、俺が甘かった。
なぜこの愛しい人一人に抱え込ませてしまったのだろう。

「少しでもお前を失うかと思うと恐ろしくなった…だが間違っていたな…すまない、本当にすまない」

何度謝っても足りない。

「謝らないでください。…傍にいてさえくれれば僕は幸せです…僕は大丈夫です、これでもここまで生き抜いてきたんです」

彼を抱きしめ、涙ながらに笑う。お互い涙声で、涙で頬が濡れている。

「それは…頼もしいな、さすがは我が后。…俺の一生に一人の愛する人だ」

「…側妻は…?」

「馬鹿言え、そんなものはお断りだ。…お前がいい、お前さえいればいいんだ」

彼を抱き上げ額を擦り付ける。甘い彼の匂いと体温。

「愛してます…アル、愛してる」

「俺もだ、愛してるぞ…永遠にな」

もう一度彼に口付け抱きしめる。
夜風が体に触らぬよう、窓辺に2人して毛布にくるまり、離れていた時間を埋める。

「それと…敬語でなくとも構わないんだぞ?」

「いえこれは…こちらの方が落ち着くので」

「…夜は敬語ではないからな」

「そ、それは…特別ですよ」

「1週間後の楽しみだな」

「…1週間のうち…どれ程共にいられますか」

おずおずと彼が尋ねてくる。そのいじらしい態度が何とも愛い。

彼の腹に手を回し、軽く擽る。

「何を言う、発情を終えるまでだぞ?」

「…よくカレルさんが許しましたね」

「まあな」

今の今まで彼の発情期に備えて執務をできる所まで進めていたとは言えない。

まあそのおかげで彼と1週間2人きりだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...